2019.10.11 軍艦島内で起きた事件 【海と月の迷路 上】
海と月の迷路(上) (講談社文庫) [ 大沢 在昌 ]
評価:3
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■ヒトコト感想
軍艦島を舞台にした物語。周囲を海で囲まれた小さな島に5千人もの人が暮らす軍艦島。この炭鉱の島に新たに赴任した警官・荒巻は島独特の風習に困惑する。ひとつの企業が島を買い取り、そこで石炭を掘り続け生計を成り立たせている者たちが生活する島。家族も狭い島の中で生活するのだが、そこは特殊な環境であった。
軍艦島には興味があり、フィクションがあるにせよ興味深く読むことができた。当時としては裕福な暮らしができ、本土では手に入れることができないレベルの生活を送る人々。社員もいれば、派遣のような形で流れ着いた者もいる。上巻では警官を必要としない暗黙の了解がある中で、ひとりの少女の事故死が発生する。これは事件なのか事故なのか自殺なのか。謎は深まるばかりだ。
■ストーリー
若き警察官の”正義”が、「軍艦島」内に波紋を広げる。わずかな土地に五千人以上が暮らす、通称「軍艦島」と呼ばれる炭鉱の島で、昭和三十四年少女の遺体が見つかった。島に赴任したばかりの警察官・荒巻は少女の事故死を疑い、独自に捜査を開始。島の掟を前に、捜査は難航するが、予期せぬ人物の協力によって、有力な証拠にたどりつくーー。
■感想
軍艦島の内部には独特なルールがある。警官が介入せずともモメごとを解決してしまう。大ごとにしたくないという思いが強く、すべてを内々におさめようとする。荒巻は新任の警官らしく正義感を振りかざし、内々に処理されることを嫌う。
島内には社員と石炭を掘る鉱員、そしてそれらを補助する組員がいる。組員のみ元ヤクザのような流れ者たちで構成されている。家族がいる職員や鉱員たちと組員たちでたびたび諍いが起こる。それをコントロールするのは内部で作り上げられた自治組織だ。
島での独特な生活は、ある意味本土よりも裕福であり捨てたくない人も多いだろう。ただ働けなくなったり犯罪を犯せば強制的に島から出てかなければならない。そのため、できるだけ問題を起こしたくないという気持ちが働くのだろう。少女が行方不明となり、その後、水死体として上がる事件が起こった。
殺人事件であれば島の内部は大騒ぎとなる。殺人者がこの狭い島内の中でうごめいている。島民たちは疑心暗鬼となり、隣人を疑い始めることになる。それを避けるために皆は慎重になりすぎている。
8年前にも同様の事件が発生していた。荒巻は8年前の事件を調べ始め、現在の事件と関係がないかを調査する。怪しげな人物はいくつか登場しており、島民ぐるみで何かを隠しながら生活しているというのは感じることができた。
職員と鉱員対組員という図式の中で、どの領域での問題なのか。外部から入ってきた異物である荒巻が島の秩序を正しい方向に戻すのか、それとも荒巻も巻き込まれてしまうのか。軍艦島という独特な島が舞台なだけに、特殊な状況が目白押しだ。
下巻では島ぐるみの事件が明らかとなるのだろうか。
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