逃亡者 


 2021.2.16      兵士の士気を上げる謎のトランペット 【逃亡者】

                     
逃亡者 [ 中村文則 ]
評価:3
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■ヒトコト感想
謎のトランペットをめぐる物語が、いつの間にか隠れキリシタンや戦時中のフィリピンの物語となる。そのトランペットから流れる曲を聴くと、兵士たちの士気が上がる悪魔の楽器。それを偶然手に入れた男が何者かに狙われる。理不尽な目にあう男。恐ろしいのは正体不明の組織にコントロールされていることだ。

男は恋人のルーツを探るために長崎へ行き、そこで隠れキリシタンの物語に触れる。このあたりはちょうど「沈黙」を見ていたのですんなりと理解できた。トランペットの持ち主の物語は強烈すぎる。戦時中での熱狂と狂乱。人を狂わせる何かがあるトランペット。それを手に入れようとする宗教団体と謎の組織。正体がわからないからこそ恐ろしい。

■ストーリー
「君が最もなりたくない人間に、なってもらう」第二次大戦下、“熱狂”“悪魔の楽器”と呼ばれ、ある作戦を不穏な成功に導いたとされる美しきトランペット。あらゆる理不尽が交錯する中、それを隠し持ち逃亡する男にはしかし、ある女性と交わした一つの「約束」があった―。キリシタン迫害から第二次世界大戦、そして現代を貫く大いなる「意志」。

■感想
宗教や戦争、そして政権に対する思いなど、特殊な物語であることは間違いない。ひとりの男が謎のトランペットを手に入れる。それが兵士たちを熱狂させ士気を上げるなぞのトランペットだった。男は謎の組織に狙われる。理不尽な状況ではあるが、男には死しか残されていない。

淡々と話しをする謎の男Bが恐ろしい。そして、その恐怖に打ち勝とうと無駄な抵抗をする男も、死に対する恐れはないように思えた。恋人がヘイトデモに巻き込まれ死亡したことにより、さらに男に変化が訪れる。

恋人が小説を書こうとしていたことを知り、男は長崎に向かう。そこでキリシタン迫害について描かれるのだが…。そのまんま「沈黙」の内容が描かれている。宗教的な考え方の違いや、当時の日本の欧米に対する対応の仕方など、非常に理不尽で恐ろしくなる。

宗教団体からトランペットを渡すように言われたりもする。登場人物たちがことごとく謎に包まれており、すべてを見透かしたように男が知らないことまでわかっていることが恐ろしい。男が知らないところで、何かが動いているのがさらに恐ろしい。

トランペットのルーツを描いているのだが、戦時中のフィリピンでの物語は強烈だ。トランペットの持ち主の手記形式で描かれているのだが…。楽団として戦地におもむき、いつの間にか銃をもたされ戦いに参加させられる。そして、戦場の極限状態で次々と現地の女をレイプする上官や同僚たち。

トランペットにより兵士たちを鼓舞してきた男が目にする現実。なんでもありな状態であっても、人間らしい心を保とうとする男の葛藤がすさまじい。

序盤での謎のトランペットの登場から引き込まれてしまう。



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