玉村警部補の巡礼 


 2018.8.25      お遍路しながら事件を解決 【玉村警部補の巡礼】

                     
玉村警部補の巡礼 [ 海堂尊 ]
評価:3
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■ヒトコト感想
玉村警部補シリーズ。今回は休暇を利用し四国のお遍路さんを周る玉村。なぜかそこに加納警視正が同行し、不可解な事件を解決する。基本は加納がその実力を発揮しミステリアスな事件の謎を解くという流れだ。シリーズの売りとして、玉村が論理的だが非常識な加納の言葉に翻弄されるというのがある。定番パターンとしての面白さはあるのだが、強烈なインパクトがあるわけではない。

アリバイ崩しや写真のトリックを暴いたり、果ては最新の医療情報から事件の解決にまでいたる。本作ではお遍路さんがメインなのだが、事件のひとつひとつはそこまでお遍路さんと密接に関わり合いがあるわけではない。作者が一時的にお遍路さんにのめりこんだのだろうか

■ストーリー
休暇を利用して八十八箇所を巡拝する四国遍路に出た玉村警部補。しかし、なぜか同行してきた警察庁の加納警視正と、行く先々で出くわす不可解な事件に振り回され……。「阿波 発心のアリバイ」お遍路の道中に遭遇した賽銭泥棒事件。加納警視正は容疑者となった女の無実を証明できるのか。

「土佐 修行のハーフ・ムーン」十年前に起きた政治家秘書不審死事件の容疑者には、鉄壁のアリバイが存在した――。「伊予 菩提のヘレシー」蚊を信仰する寺で発見された不審死体。事件性はないかに思われたが、加納はAiの実施を主張する。「讃岐 涅槃のアクアリウム」讃岐のひょうげ祭りに爆破テロ予告が! しかし、その背後には巨大な闇組織の暗躍があった……。

■感想
「阿波 発心のアリバイ」は、お遍路さんで大金を寄付した金を猫糞した容疑をかけられた女性を助ける物語だ。女性がもつ金は寺に寄付された金なのか…。ありがちなパターンなのかもしれないが、女性がもつ金が誰の金なのかを調査する物語だ。

本作では、導入編として四国のお遍路さんの説明や、なぜ加納と玉村が一緒にお遍路さんを周っているのかの説明が続いていく。バチスタシリーズの刑事二人が、くそ真面目にお遍路さんを周るというのは、最初は違和感しかなかったが、後半ではそれに慣れてくるから不思議だ。

「伊予 菩提のヘレシー」はかなり特殊だ。蚊を信仰する寺で全身の血を抜かれて死んだ死体があった。蚊に血を吸われすぎて失血死したと思わせる流れだ。それまでのお遍路さんの奇妙な流れから、蚊を研究したり信仰したり、おかしな儀式まで登場したりとちょっと不思議な印象が強い。

ただ、ラストでは現実的なオチとなる。いくら蚊が大量に存在したからといって、全身の血を全て吸い取られるというのはあり得ない状況だ。医療の知識を用いて事件を解決するのだが、そもそもの事件のもって行き方が特殊すぎる。

「讃岐 涅槃のアクアリウム」はそれまでの短編と毛色が違っている。今までは加納と玉村の事件解決がメインだったが、本作では別の人物がメインとして活躍している。簡単に言ってしまえば、死体の歯を細工することで、まったく別人の死体を作り上げる職人的男だ。

加納や玉村と対決するパターンではなく、単純に裏でどのようなことをやっていたかが語られている。結局大きな事件解決は加納が行うのだが、そこで少しの助けとなっている。別のパターンとしての面白さがある。

海堂尊ファンならば読むべきだろう。



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