チームバチスタの栄光 下 海堂尊


2008.12.3  ある強烈なキャラクター 【チームバチスタの栄光 下】

                     
■ヒトコト感想
上巻ではバチスタ手術の詳細と、その緊迫感。そして、術死が発生したときの喧騒。それらすべてが相乗効果となり、医療ミステリーというとっつきにくい部分を面白いエンターテインメントに仕立て上げている。映画版を見ている関係上、トリックはわかっているのだが、そこに至るまでの過程がまた映画版と違って面白かった。特にキャラクターとしての白鳥が、頭の中には安部寛なのだが、どうもキャラクターとしてのインパクトは本作の方が強い。特にロジカル・モンスター的部分は、映画よりも文章として表現されたほうが強く印象に残る。手術中のヒリつくような緊迫感は、映像には負けるかもしれないが、それに負けないだけの細かな描写がすばらしい。

■ストーリー

東城大学医学部付属病院で発生した連続術中死の原因を探るため、スタッフに聞き取り調査を行なっていた万年講師の田口。行き詰まりかけた調査は、高階病院長の差配でやってきた厚生労働省の変人役人・白鳥により、思わぬ展開をみせる。とんでもない行動で現場をかき回す白鳥だったが、人々の見えなかった一面が次第に明らかになり始め…。

■感想
まずなんといっても本作のポイントは白鳥だろう。完全に主役である田口を食ってしまっている。ミステリーではおなじみの、変わり者だが能力が高いというキャラクター設定。言葉足らずというか、人間的にどうなのかと疑われるほどのロジカルシンキング。ここまで強烈だとは映画を見ただけでは思わなかった。この手の特異なキャラは、事件の全てを見通していながらも、なかなかその真相を明かそうとはしない。白鳥もその偏屈なキャラクターで田口から異端視され、物語を面白くしている。ある意味定番だが、医療界での出来事だけに新しさを感じてしまう。

トリックは思いっきり専門的なことだ。最初に映画を見たときには、なんだか煙に巻かれたような、専門家ならばアッと驚くが素人にそういわれても…という思いがあった。それは原作を読んでも払拭されることはない。このパターンは駄目だけど、このパターンならOK。素人目にはその違いがほとんどわからないが、トリックとして成立しているような気になるのは作者の筆力なのだろう。本作のトリックが医学界的にはどのようなものなのか。衝撃的で誰も思いつかないことなのだろうか。それは専門家にしかわからない。

本作は映画だけにとどまらず、ドラマ化もされているらしい。ミステリーを連続ドラマとするには厳しいような気がするが、キャラクターが豊富なだけにどうにかなるのだろう。医療ミステリーという新しい分野と、さらには手術中に起こる連続死というセンセーショナルな出来事。題材の良さと、ありえない個性を持ったキャラクターたち。ただ、上巻でも感じたことだが、主役である田口のインパクトがさらに弱まっている。最後にそれらしい仕事をするのだが、それもなんだかとってつけたような印象しかない。決定的に駄目な医者だとも思えないし…。なんだか白鳥のインパクトが大きすぎるために、普通な田口がどこか普通じゃないように感じてしまうのだろうか。

実はこんど仕事で医者と関わることがあるのだが、その医者は麻酔医だけになんだか変な先入観をもってしまいそうだ。



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