旅の窓 


 2021.9.11      旅先での何気ない写真だが、最高だ 【旅の窓】

                     
旅の窓 [ 沢木耕太郎 ]
評価:3
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■ヒトコト感想
作者が旅先で何気なく撮った写真に1ページの文章を添えた作品集。「深夜特急」などで多くの国を旅した作者が何気なく撮る写真がすばらしい。ただの風景ではなく、人を中心とした写真だ。印象的なのは、小さな少女が父親の写真を撮っている場面を映した写真だ。

少女に撮らせてとでも言われたのだろうか。父親の方は困惑した表情で立っている。少女が得意げに写真を撮るその空気感が伝わってくる。作者はその場面を見て印象的な文章を書いている。父親からすると、幼い少女を写真におさめたいのだろう。ただ、父親は自分一人が写る写真を見たときに、この状況を思い出して微笑むというのが良い。そのほか、作者独自の写真を見て想像した文章がすばらしい。

■ストーリー
「旅を続けていると、ぼんやり眼をやった風景のさらに向こうに、不意に私たちの内部の風景が見えてくることがある」。マラケシュのホテルで見た「待つ女」、ローマで旅愁を覚えた終着駅、カトマンズで胸をしめつけられた裸電球―。旅先で撮った八十一枚の写真から、人生の機微を描いた物語が立ち上がる。沢木耕太郎「もうひとつの旅の本」。

■感想
異国の地で何気ない人物や風景の写真を撮る。ホテルの裏路地で休憩するメイドのふたりが、片方はタバコを吸い、もうひとりはスマホを見る。ちょっと胸元がセクシーなメイドふたりが休憩する写真を見て、時代の変化を感じている。

確かに休憩中にスマホを見るというのはスマホが登場してからのことだ。旅先で何気なく撮る写真というのは、そこにはほとんど意味がないのだろう。シャングリラと名が付いた場所に行ったはいいが、何もない道というのは面白すぎる。

ベトナムの少女の満面な笑みを写真に撮る。かわいらしい少女だが、自分の美しさを理解していない純粋な笑顔が良いと言う。子供たちの無邪気な姿を写真に収める場面が多いのだろう。渡し舟に同乗した中国の家族とブラジルの家族の子供たちが、子供たち同士で言葉が通じない中でコミュニケーションをとろうとする。

ブラジルの子供たちが積極的に話しかけても、中国の子供は下を向いて恥ずかしがっている写真は良い。子供たちにとっては国籍などほとんど関係ないのかもしれない。

作者の人柄がでるような写真が多数ある。何気ない外国の日常の人々を写した写真の数々。イタリアでは中田と会ったりと、交友関係は幅広く、華やかな生活を想像しがちだが、実際には質素なのだろう。他の作者の作品から、物欲がないというのは知っていた。

写真の中にもそれが現れているようだ。海外の魅力的な観光地を写真として表現しているわけではない。ただ、何気ない海外の一場面ではあるが、妙な魅力がある。目的もなく海外へ行き、日常の写真をとると本作のようになるのだろう。

魅力的な写真ばかりだ。



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