それでもデミアンは一人なのか? 


 2019.10.31      Wシリーズから続く強烈な流れ 【それでもデミアンは一人なのか?】

                     
それでもデミアンは一人なのか? Still Does Demian Have Only One Brain? (講談社タイガ) [ 森 博嗣 ]
評価:3
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■ヒトコト感想
ウォーカロンシリーズは一区切りついたのだろうか。いつの間にか新しいシリーズあつかいとなっている。主人公はハギリではなくグアトとなりドイツで楽器職人として暮らしている。極度に人工知能が発達した世界で、人工知能同士の対決に巻き込まれないためにハギリは名前を変えてドイツで生活しているのだろう。

新シリーズとしてグアトの周りには前シリーズと同様に警護のウォーカロンやヴァーチャルの世界での会話がある。そして、作者の作品ではおなじみなマガタ博士の話題が登場してくる。今回は人間の脳を別のウォーカロンに移植し、人間本体の脳の中には通信装置しか残らず、ウォーカロンが遠隔操作するというとんでもない世界になっている。強烈な未来だ。

■ストーリー
楽器職人としてドイツに暮らすグアトの元に金髪で碧眼、長身の男が訪れた。日本の古いカタナを背負い、デミアンと名乗る彼は、グアトに「ロイディ」というロボットを探していると語った。彼は軍事用に開発された特殊ウォーカロンで、プロジェクトが頓挫した際、廃棄を免れて逃走。ドイツ情報局によって追われる存在だった。知性を持った兵器・デミアンは、何を求めるのか?

■感想
前回のWシリーズはとりあえず終わったのだろう。人工知能同士の対決ではすべてが演算されつくす。そのため、想定外の要素を導く可能性のあるハギリは排除の対象となる。それを避けるためハギリは名前を変えてドイツに移住し楽器職人としてひっそりと暮らしている。

一瞬、グアトの存在がどのような位置づけかわからなかった。話し方や考え方はまるっきりハギリなのに別人物のような流れ。物語がすすむにつれてそのあたりは明らかとなってくる。新シリーズではあるが前シリーズを引き継いで物語はすすんでいる。

今回はデミアンと名乗るウォーカロンが大暴れする。剣を持つ武闘派な存在だ。グアトの目の前で圧倒的な強さを示すデミアン。物語のテーマとしては、人間はただの器でしかない。重要なのは脳であるため、脳だけを外だしし、器である人間だけを用意すれば良い世界となっている。

無茶苦茶な世界だ。人が死なない世界であれば、行きつく先は本作のようになるのだろうか。デミアンが探し出そうとするのは自分の元の肉体である王子の体なのだろうか。それとも…。

物語はラスト近辺で猛烈な変化を見せる。デミアンは予想通り人間の脳を内部に持っていた。ただ、その脳の本体の人間が誰かというのが問題だ。デミアンの中身がある人間を遠隔操作していた。その人間の頭の中にはデミアンと通信する装置のみが埋め込まれていた。

スキャンダルを逃れるために通信設備を奪うため、首を切り取り頭をデミアンが持ち去った。整合性がとれているようでとんでもない世界だ。そして、ラストではもうひと段階大きな謎がある。実はデミアンはもう一人別の人間を外部から操作していた。

新シリーズなのだが、基本の世界観は変わらない。



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