王国 


 2018.2.23      ハニートラップを仕掛ける女 【王国】

                     
王国 (河出文庫) [ 中村文則 ]
評価:3
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■ヒトコト感想
特殊な仕事を生業とするユカリが主人公の本作。ユカリが相手の男に社会的な制裁を与えるための行動はまさに今でいうところのハニートラップだ。男を誘惑し、情事に及ぶ前に相手を前後不覚にし、さも情事が終わったかのような写真を撮る。そんな非合法な活動をしてきたユカリが、ひとりの男・木崎からの電話で様々な危機に直面することになる。

「掏摸」から繋がる物語なので、「掏摸」を読んでいた方がより楽しめるだろう。自分が生き残るためにあらゆる手段を準備するユカリだが、その上をいくのが木崎だ。木崎の冷酷なまでの存在が恐ろしい。複数の組織に挟まれる形となった後半、どのようにしてユカリがこの窮地から脱するかが、物語の最も盛り上がるポイントだ。

■ストーリー
組織によって選ばれた「社会的要人」の弱みを人工的に作ること、それがユリカの仕事だった。ある日、彼女は見知らぬ男から忠告を受ける。「あの男に関わらない方がいい…何というか、化物なんだ」男の名は木崎。不意に鳴り響く部屋の電話、受話器の中から語りかける男の声―圧倒的に美しく輝く「黒」がユリカを照らした時、彼女の逃亡劇は始まった。世界中で翻訳&絶賛されたベストセラー『掏摸』の兄妹篇が待望の文庫化!

■感想
男を罠にかけ、社会的に抹殺するような写真を撮る。依頼者がおり、その依頼者の言うとおりに行動するユカリ。ただ、自分の安全を第一に考えるユカリなので、リスク管理に抜かりがない。ユカリの策略にはまる男たちは、男たち自身に問題がある。

自業自得と言えるだろう。ユカリは巧みな話術と魅力的な容姿をすべて駆使して相手を罠にはめようとする。世間で有名芸能人の不倫スキャンダルが騒がれているが、もしかしたらそのうちのいくつかは、ユカリのような存在により仕組まれたものなのだろうか。

木崎の存在は圧倒的に恐ろしい。人の命をなんとも思わない存在なため、ユカリがどのように木崎に対応しようとも、木崎を超えることはできない。唯一の生き残る手段を提案するユカリ。それすらも、木崎に利用されることになる。ユカリの生きるための執念はすさまじい。

何かを提案する際にも、自分の答えがその後どういった影響を及ぼすかまで考えながら答える。このユカリの用心深さをもってしても、木崎を出し抜くことはできない。木崎の存在が物語を引き締めている。

二重スパイのような行動をとるユカリ。それすらも木崎に利用されることに…。木崎の先読みの力と、ピンチに直面した際にユカリのとる行動。何か特殊な状況から抜け出すために、ユカリがどういった行動をとるかが本作のポイントだ。

木崎の恐ろしさと、非合法な仕事を生業とした女の運命を感じずにはいられない。常に一寸先は闇の状態であるユカリが、どのようにしてその先にすすんでいくのか。安全第一ではないユカリではあるが、最善をつくして生き残ろうという執念は感じてしまう。

木崎の存在が物語の面白さのすべてだ。



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