掏摸 


 2018.1.6      悪は悪としてのポリシーを貫く 【掏摸】

                     
掏摸【電子書籍】[ 中村文則 ]
評価:3.5
中村文則おすすめランキング
■ヒトコト感想
天才的なスリ師の物語。まずスリの描写がすさまじい。ほんの少しの隙をついて財布をする。凄腕のスリ師が、闇社会の強烈な悪と再会し無茶な命令を言い渡される。孤独な天才スリ師は、母親に無理矢理万引きさせられている子供を助けようとする。スリ師であるにも関わらず、子供への接し方やその母親への態度などで非常に好感がもてるキャラクターとなっている。

スリ師だが善。そして、圧倒的な悪の木崎の存在が、よりスリ師を魅力的にしている。木崎の考え方は極悪だ。人を人と思わず、人の人生を操ることに喜びを感じる。心情としてはスリ師が木崎に何らかのしっぺ返しすることを期待していたのだが…。悪は悪としてのポリシーを貫くのが良い。

■ストーリー
東京を仕事場にする天才スリ師。ある日、彼は「最悪」の男と再会する。男の名は木崎、かつて仕事をともにした闇社会に生きる男。木崎は彼に、こう囁いた。「これから三つの仕事をこなせ。失敗すれば、お前を殺す。逃げれば、あの女と子供を殺す」----運命とはなにか、他人の人生を支配するとはどういうことなのか。そして、社会から外れた人々の切なる祈りとは……。

■感想
天才スリ師のスリ描写に、瞬く間に魅了されてしまう。敢えて自分が金持ちのような恰好をし、同じく金を持っていそうな人物から財布をする。ポケットだけでなく、カバンを開けたり、コートの胸ポケットからとり出したり。常人では不可能なテクニックを駆使して財布をスル。

しまいにはナイフでポケットを切り取り中身を奪い取る。相手に気づかれずに実行する鮮やかさがすばらしい。そんなスリ師が、母親に無理矢理万引きさせられている子供を助けようとする。自分の子供時代とダブるのか、スリ師の病んだ心を癒すべき役割なのだろう。

天才スリ師が過去に実行した大掛かりな悪事。それを取り仕切っていた男が木崎だ。悪事は成功し、チームは解散したはずだが…。スリ師の仲間は行方不明となる。木崎に始末されたと思わしき流れ。そして、スリ師は木崎と再会してしまう。

ここからの盛り上がりがすさまじい。木崎はスリ師を脅し、3つの仕事をやれと命じる。断れば、スリ師が目をかけていた母子を殺すと脅す木崎。3つの仕事は段々とハードルが上がり、最後の仕事は到底不可能かと思われたことだが、スリ師は仕事を成功させてしまう。

木崎がすさまじい信念をもった悪だというのがすごい。人の運命を自由自在にあやつる男。そうなる運命だからと人の命をまったくなんの感情もなく奪う。ここまで完全な悪であれば、逆に魅力的に思えてしまう。木崎が語る貴族の悪もまたすさまじい。

スリ師がどれだけ必死になったとしても、それは木崎の掌の上でしかない。スリ師の最後の仕事が成功しようが失敗しようが、木崎の計画には関係がない。ついつい判官びいきな気持ちで読んでしまうため、最後にはスリ師が逆転の何かがあるのでは?と思ってしまった。

強烈なインパクトがあるのは間違いない。



おしらせ

感想は下記メールアドレスへ
(*を@に変換)
*yahoo.co.jp