昨日がなければ明日もない 


 2020.4.4      とてつもなく嫌な奴は最後まで救いがない 【昨日がなければ明日もない】

                     
昨日がなければ明日もない [ 宮部 みゆき ]
評価:3.5
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■ヒトコト感想
このシリーズの肝である、嫌な登場人物は今回も健在だ。3つの中編が収録されている本作。それぞれに嫌な奴が登場してくるのだが、これが救いようがない。何かしら嫌な奴にも言い分があったりだとか、そうなる理由などが語られるのが普通だが、本シリーズではそれがない。嫌な奴はとことん嫌な奴で、それを突き詰めるような感じだ。そのため、読了後の後味は良くない。

悪はそれなりに報いを受けるのだが、なんだか救いがない。ごく普通の常識が通用しない。この強烈な嫌な奴といういうのは、強烈なインパクトがある。杉村シリーズは、内容はすばらしく入り込めるが、登場キャラクターがとんでもなく嫌な奴なので、読むのが辛くなるような状況の作品もあった。

■ストーリー
「絶対零度」……杉村探偵事務所の10人目の依頼人は、50代半ばの品のいいご婦人だった。一昨年結婚した27歳の娘・優美が、自殺未遂をして入院ししてしまい、1ヶ月ヵ月以上も面会ができまいままで、メールも繋がらないのだという。杉村は、陰惨な事件が起きていたことを突き止めるが……。「華燭」……杉村は近所に住む小崎さんから、姪の結婚式に出席してほしいと頼まれる。小崎さんは妹(姪の母親)と絶縁していて欠席するため、中学2年生の娘・加奈に付き添ってほしいというわけだ。会場で杉村は、思わぬ事態に遭遇する……。

「昨日がなければ明日もない」……事務所兼自宅の大家である竹中家の関係で、29歳の朽田美姫からの相談を受けることになった。「子供の命がかかっている」問題だという。美姫は16歳で最初の子(女の子)を産み、別の男性との間に6歳の男の子がいて、しかも今は、別の〝彼〟と一緒に暮らしているという奔放な女性であった……。

■感想
「絶対零度」は、自殺未遂をした娘と会うことができないという母親の依頼からスタートする。非常に闇が深い作品だ。部活の先輩後輩の関係がそのまま社会人になっても続き、奥さんまでも巻き込んでしまう物語だ。杉村が探偵としての能力をいかんなく発揮する。

相手を観察し尾行して隠れ家を探りあてる。そこにいたるまでには、IT技術を駆使して相手の情報を手に入れる。今の時代はSNSを駆使すれば、人間関係を探り当てるのは容易なのだろう。

表題作でもある「昨日がなければ明日もない」は、かなり強烈に嫌なやつが登場する物語だ。若くして子供を産み、離婚と結婚を繰り返す女。別れた夫の元へも金の無心に現れる。あげくの果てには、事故をした息子が、義理の母親の策略による殺人だと訴える。

非常にモンスターな依頼者だ。ごく一般的な常識が通用しない。相手の親族も扱いに困るモンスターだ。さらには、その娘にも母親の血が受け継がれている。ある意味、不幸な娘なのかもしれないが、このモンスターの母親の行動はすさまじいインパクトがある。

この杉村シリーズにはとんでもないインパクトがある。嫌な奴が登場するのは定番として、前作では仲睦まじい幸せな家庭と思われていた杉村家が、実は妻が浮気をしており、ラストでは離婚するという衝撃がある。

その続編である本作では、離婚した杉村が細々と探偵業務を続ける物語だ。離婚した相手は大企業の会長の娘。杉村の生活の落差というのはすさまじいものがある。それまで金に不自由なく暮らしていたのが、日々の生活の糧を得るために仕事をとってこなければならない。

このシリーズには強烈なインパクトがある。



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