氷舞 新宿鮫6 


 2018.12.29      いつまでも続く公安OBの影響力 【氷舞 新宿鮫6】

                     
氷舞新装版 新宿鮫6 長編刑事小説 (光文社文庫) [ 大沢在昌 ]
評価:3
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■ヒトコト感想
新宿鮫シリーズ第6弾。今回は公安警察をさらに監視する公安総務や警察OBの権力者がポイントなのだろう。鮫島がアメリカ人のブライド殺害事件を追いかける中で、公安OBである立花の影がちらつき始める。鮫島は組織におもねらない型破りな刑事なので、各所からの圧力に対して独自の調査を続ける。

警察庁や所轄県警との駆け引きや、事件を隠蔽させないための策略など。今までのシリーズと比べ、警察内部の妨害がこれでもかと描かれている。どことなく雰囲気は「横山秀夫」作品に近いかもしれない。公安OBや元公安で現在政治家となった大物の存在など、警察組織は力のあるOBの存在によりいかようにも変わる可能性があるのだろう。

■ストーリー
西新宿のホテルで元CIAの米人ブライドが殺され、新宿署刑事・鮫島の追う日系コロンビア人・ハギモリが消えた。事件の鍵を握る平出組の前岡に迫る鮫島。しかし、事件に関わるすべてが、なぜか迅速強固な公安警察の壁で閉ざされる。

その背後には元公安秘密刑事・立花の影が。捜査の過程で鮫島は、美しく、孤独な女・杉田江見里と出逢う。その鮫島を幾重にも襲う絶体絶命の危機!!血と密謀にまみれた立花が守る、公安の奥深くに隠された秘密とは?ラストに絶望と至福が、鮫島を、江見里を、そして読者を待ち受ける。

■感想
ブライドが殺された事件を調査する過程で、鮫島は偶然杉田江見里と出会う。ここで鮫島は事件関係者に心惹かれることになる。事件に対する思いと、他の女に気を奪われる鮫島という2種類の鮫島が描かれている。

事件に公安が絡んでくるとわかると、鮫島は公安に邪魔されないよう様々な策略を練る。今回は事件の犯人側が手ごわいのではなく、それに関連して過去の表に出せない秘密を隠蔽しようとする権力側との対決といってもよいだろう。

キャリアである鮫島は、同期の香田とのやりとりがある。ドロップアウトした鮫島と出世街道をひた走る香田。ただ捜査に対して怖いものなしなのは、失うものがない鮫島の方だ。事件の暗部には元公安警察のOBである立花が関わっていた。この立花が強烈な個性をはなっている。

刑事時代の上司を酔心し、退官した後もその気持ちが変わることはない。立花のような存在は、もはや宗教の教祖に熱をいれる信者と何も変わらないのだろう。公安警察の大物OBが事件の裏にいるとわかると、突然みなの動きが悪くなるのは組織人としては当然のことなのだろう。

事件の黒幕と鮫島の対決は壮絶だ。大物は末端の者たちとの関わり合いを避け、うまく立ち回る。直接的な指示がなく関係も暴けないとなると逮捕するのは難しい。ただ、余計なうわさが立つことさえも嫌うので、制御できない鮫島に対しては蓋をしようとする。

警察内部の権力争いは、ある意味メンツの争いでもある。鮫島を助けたわけではなく、メンツを保つために行動したことが、鮫島の助けになることもある。公安警察の恐ろしさと、OBがどこまでも権力をもつ体制には驚愕せずにはいられない。

シリーズとしては珍しいパターンだ。



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