炎蛹 新宿鮫5 


 2018.10.31      日本の農業を絶滅させる害虫 【炎蛹 新宿鮫5】

                     
炎蛹 新宿鮫V 光文社文庫新宿鮫シリーズ5/大沢在昌(著者)
評価:3
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■ヒトコト感想
新宿鮫シリーズ。今回は金髪の女性が殺されるという事案が発生し、それに絡んで海外から日本の農業を絶命させるほどの勢いのある害虫が持ち込まれた件が語られている。いつものごとく鮫島が新宿を拠点として外国人娼婦殺害事件を調査する。今までの他シリーズと比べると、ミステリアス感は弱い。

連続殺人、連続放火、そして未知の害虫。それぞれが複雑に絡み合うことで、鮫島と植物防疫官の甲屋がコンビを組んで調査をする。鮫島が危機的状況におちいるわけではない。ただ淡々と事件の調査と、それにかかわる者たちとの関係が描かれている。今までの新宿鮫シリーズと比べると、ちょっと引きの強さがない。事件が単純化できるというのもあるのだろう。

■ストーリー
外国人娼婦殺害の現場に、植物防疫官の甲屋が割り込んできた。日本の稲作を壊滅に追い込む害虫「火の蛹」が、殺された女性によって南米から持ち込まれたというのだ。鮫島は甲屋とともに、娼婦殺害に関わるイラン人の行方を追う。その男は、鮫島が内偵を進めていた窃盗グループの一員でもあったのだ。放火、拉致監禁…。さらに燃え広がる事件に、鮫島が立ち向かう!

■感想
鮫島が本作で事件にかかわるのは、イラン人窃盗グループの内偵からだ。そこから、外国人娼婦殺害事件へとつながり、さらには日本の農業を壊滅させる危険性のある蛹を探すことになる。植物防疫官という存在や、外国から入り込んだ害虫により日本の農業に影響がある危険性など強烈なインパクトがある。

鮫島と検疫官のふたりはコンビを組んで新宿中を調査する。今までのシリーズと比べると、どこかおだやかな雰囲気がある。事件の規模もそこまで大きくないからだろうか。

炎蛹というのは強烈だ。ひとたび日本に入り込み、蛹から成虫になると交尾を必要とせず、ひたすら増殖し続け、ついには日本中のコメを食い荒らしてしまう。フィクションだとわかっていても、強烈なインパクトのある害虫だ。稲穂につく真っ赤な蛹。

ぱっと見は木の実のように見える美しい姿。その中にナン十匹と害虫の幼虫が潜んでいるとなると、それだけで寒気がしてくる。現実に海外から持ち込まれた外来種が、日本の作物を荒らすというのはよくあることなのだろう。

新宿鮫シリーズとしてのインパクトは弱い。鮫島が調査する相手というのは、犯人目線で語られる部分があるため、摩訶不思議な雰囲気はある。いったいどのような人物が犯人なのか?という興味はわいてくるのだが、オチが判明した後に、特別な驚きはない。

新宿鮫シリーズとしてキャラが確立されているので、物語に入り込みやすいが、今までのシリーズのようにヒリつくような緊迫感はない。炎蛹だけが唯一、緊迫感あふれる材料なのかもしれない。

シリーズとしては、中だるみした感じだ。



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