ヒトごろし 


 2018.9.4      新しいタイプの土方歳三 【ヒトごろし】

                     
ヒトごろし [ 京極 夏彦 ]
評価:3
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■ヒトコト感想
新選組の土方歳三が主役の物語。人を殺すことに無情の喜びを感じる男。ごく一般的な新選組としての描かれ方はしていない。浅田次郎の「壬生義士伝」とも違う、独自の視点の物語だ。歳三は人を殺したいと思う。合法的に人殺しができる手段として新選組を活用する。歴史的事実と物語の流れが面白い。

一般的には良いイメージで通っている沖田総司も、実は歳三と同じく人を殺すことに喜びを感じている人物だという描かれ方は面白い。他作品でいうと「壬生義士伝」で登場した吉村に関しては、終始一貫して金に汚いというのもまた面白い要素だ。歳三の性格だけを異常者にしたのだが、それ以外は歴史的事実に当てはめ物語をすすめている。人を殺したい土方歳三が主人公のというのは意外なキャラ設定だろう。

■ストーリー
殺す。殺す殺す。ころしてやる――。新選組の闇に切り込む禁断の異聞! 人々に鬼と恐れられた新選組の副長・土方歳三。幼き日、目にしたある光景がその後の運命を大きく狂わせる。胸に蠢く黒い衝動に駆られ、人でなしとして生きる道の先には? 激動の幕末で暗躍し、血に塗れた最凶の男が今蘇る。京極夏彦史上、衝撃度No.1! 大ボリュームで贈る、圧巻の本格歴史小説の誕生。

■感想
人殺しに無情の喜びを感じる土方歳三。一風変わった土方歳三像を描いた本作。新選組を立ち上げる前から、その異常性をあらわにしてきた歳三。人々に鬼と恐れられた歳三はどのような思いで人を斬ってきたのか。京極夏彦が描く歴史モノ作品のひとつとしても、かなり異色の部類に入るかもしれない。

自分があまり歴史に詳しくないために、新選組の内部事情については、本作を通して興味がわいてくる部分もあった。近藤勇と土方が実は幼馴染だったということや、その他の隊士たちともそれなりに関係があったことに驚いた。

新選組としての面白さが描かれているのは間違いない。隊士同士の関係や、剣士としての序列なども興味深い。その中で、歳三の異常さや謀略の数々は、まさに鬼にふさわしい所業なのだろう。人気隊士である沖田総司や斎藤一なども当然登場してくるのだが、京極夏彦の描き方だと、また違った雰囲気を醸し出している。

芹沢鴨についても、ある作家の作品ではすばらしい武士として描かれていたりもするのだが、本作に関していえば、まさに悪の権化のような描き方をされている。歴史の違った見方としての面白さがあることは間違いない。

結末は決してブレない歴史的事実があるため、想定できる。ただ、そこに至るまでの歳三と周りの隊士たちとの交流は興味深く読むことができた。作中では坂本龍馬や彰義隊の話が登場してきたりと、最近見た映画作品とリンクしているだけに、より楽しむことができた。

歴史上の人物である土方歳三が、本当に京極が描く人殺しが好きな人物だとは思わない。ただ、そう想像して物語を描くというのは面白い。ステレオタイプなキャラではない、京極ワールド独特なキャラ設定がポイントなのだろう。

純粋な新選組ファンは読まない方がよいかもしれない。



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