壬生義士伝 上 


2007.4.18 新撰組のマイナーキャラ 【壬生義士伝 上】

                     

評価:3

■ヒトコト感想
実は新撰組のことはよく知らなかった。名前は聞いたことがあり、どんなことをやったとか基本的なことはわかる。しかし新撰組をテーマにした作品が多数でているが、それらはいっさい見たことがなかった。自分の中ではただ歴史的な出来事の一部でしかなかった。そんな状態で読むとやけに新鮮だ。まず登場キャラクターの個性はある程度固まっているとしても吉村貫一郎というマイナーなキャラを主役にしたことで、ありきたりではない印象を受けた。新撰組を表面上でしか知らない人は、おそらく本作をきっかけとして興味がわいてくるだろう。

■ストーリー

小雪舞う一月の夜更け、大坂・南部藩蔵屋敷に、満身創痍の侍がたどり着いた。貧しさから南部藩を脱藩し、壬生浪と呼ばれた新選組に入隊した吉村貫一郎であった。“人斬り貫一”と恐れられ、妻子への仕送りのため守銭奴と蔑まれても、飢えた者には握り飯を施す男。元新選組隊士や教え子が語る非業の隊士の生涯。

■感想
吉村貫一郎は実は誰よりも強かった。コアな新撰組ファンが読んだらもしかしたら怒る内容なのかもしれない。史実にどれほどのっとっているかわからないがそんなことはどうでも良い。有名な新撰組の隊士たちに対して勝るとも劣らない剣技を披露する姿を読むと、昔のヒーローものを見ているような気さえしてくる。普段はおとなしく平和主義だが、自分が死なないためには冷酷非道な鬼になる。圧倒的な強さというものは、ご都合主義と感じるかもしれないが言いようのない爽快感がある。

前半部分は吉村の境遇と金への執着に対する説明がなされている。新撰組でこのくだりが必要かどうかは別にして、吉村というキャラクターを印象付けるには絶対に必要な部分なのだろう。実直で融通のきかない性格。それでいて他人に対しては優しいが金に対してはものすごい執着心がある。正直最初のころはなかなかキャラクターをつかむことができなかった。場面によって、大きく印象が変わるのも特徴かもしれない。

本作は上巻として新撰組と吉村を取り巻く環境や、吉村の家族のことが描かれている。今後おそらく佳境に近づくにつれて悲しさのようなものが漂ってくるのだろうか。今はまだ新撰組の歴史を説明し、吉村という人物の人となりを知ってもらう段階なのだろうか。最終的な結末まで実際にはある程度予想することはできる。そこまでありきたりに進むのか、それとも何か大きな事件でも起きるのか、これは下巻を読んでからのお楽しみだろう。

新撰組に興味が無い人が読んでも十分に楽しめる。そして、本作をきっかけとして別の新撰組作品を読んでみたくなるかもしれない。

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