風化水脈 新宿鮫8 


 2019.5.25      30年前の事件が現代に繋がる 【風化水脈 新宿鮫8】

                     
風化水脈新装版 新宿鮫8 長編刑事小説 (光文社文庫) [ 大沢在昌 ]
評価:3
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■ヒトコト感想
新宿鮫シリーズ第8弾。今回は過去のシリーズを読んでおく必要がある。「新宿鮫」で中国人ヤクザの幹部を殺害し服役した真壁が登場してくる。出所した真壁は組から安全な仕事を割り当てられるが、鮫島が目をつけていた高級車窃盗団とのつながりが見えてくる。

真壁の周辺の物語と、鮫島が追いかける車両窃盗団のアジト近くで、偶然30年も前の警官が拳銃を奪われた事件が関係してくる。過去に縛られた様々な人々が交錯する物語だ。一見、関係なさそうな物事が実はつながっていた。真壁の情婦の母親が、実は過去の事件の関係者であった…。事件としての複雑さはないが、過去に縛られた人はどのような行動にでるのかが詳細に描かれている。

■ストーリー
殺人傷害事件で服役していた真壁が出所した。だが、真壁が命がけで殺そうとした男・王は、藤野組と組む中国人組織のボスとなっていた。一方、高級車窃盗団を追う鮫島は、孤独な老人・大江と知り合う。大江に秘密の匂いを嗅いだ鮫島は、潜入した古家で意外な発見をした―。過去に縛られた様々な思いが、街を流れる時の中で交錯する。心に沁みるシリーズ第八弾。

■感想
真壁が出所し藤野組に復帰する。ただ、真壁が過去に殺した中国人の部下たちが、新たなビジネスを藤野組と行っていた。真壁がらみの物語としては、ヤクザが結婚することの難しさが語られている。相手の親からすると絶対に受け入れることのできない状況だろう。

真壁がヤクザを辞めることを考えるのか、それとも…。真壁の情婦の母親が、実は過去の事件に絡んでいるなど、複雑な人間関係が明らかとなる。その先には、過去に縛られた者たちが、怨霊のようにその場にただたたずんでいることになる。

鮫島が追いかけ続けた車両窃盗団の作業場の近くで、孤独な老人である大江と知り合う。ただの駐車場の管理人であるはずの大江が、実は警官であった過去があり、拳銃を何者かに奪われ辞職していたことが明らかとなる。大江の存在が物語を複雑にしている。

大江が守り続けたのはいったい何なのか。大江が盗まれた拳銃で、殺人が行われた事実を大江は知っていたのか。知っていてなお、それを隠し続けていたのか。大江がどこまで理解し、見守り続けたかがポイントだ。

全てを解明した鮫島はどのような行動にでるのか。あえて何十年も前の事件を蒸し返し、関係者その他もろもろに処分を下させるような動きをするのか。真壁が中国マフィアと再会し、そこでお互いの因縁を思い出すことになる。

シリーズの定番として、最後は三つ巴の戦いとなる。事件は複雑ではないが、はるか過去の事件であることと、その関係者たちに意外な繋がりがあることがポイントだろう。鮫島の地道な捜査により掘り返された過去。それを不運と感じるかは、大江次第だろう。

シリーズとしてはめずらしいパターンだ。



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