あやかし草紙 三島屋変調百物語伍之続 


 2018.11.17      自分の寿命が描かれた本 【あやかし草紙 三島屋変調百物語伍之続】

                     
あやかし草紙 三島屋変調百物語伍之続 [ 宮部 みゆき ]
評価:3
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■ヒトコト感想
三島屋変調シリーズの第5弾。このシリーズの特徴である、風変りな話は5編ある。何か教訓めいたものではなく、単純に呪いのような怖さや、災いを呼び起こす面の恐怖などが描かれている。おかちたちは、すでに風変りな百物語を聞くことには慣れているので、話者があたふたするところも、ゆっくりとした声で相手を落ち着かせ話をうながしている。

本作の一番のポイントは、おかちが結婚相手を見つけたということだ。シリーズとして、おかちの後を引き継ぐ者も存在しており、「金目の猫」では、新たな百物語がスタートするような兆しすらある。百物語それぞれには、それぞれの面白さがある。シリーズの第一期を締めくくるのに最適な作品だ。

■ストーリー
江戸は神田の筋違御門先にある袋物屋の三島屋で、風変わりな百物語を続けるおちか。 塩断ちが元凶で行き逢い神を呼び込んでしまい、家族が次々と不幸に見舞われる「開けずの間」。 亡者を起こすという“もんも声”を持った女中が、大名家のもの言わぬ姫の付き人になってその理由を突き止める「だんまり姫」。

屋敷の奥に封じられた面の監視役として雇われた女中の告白「面の家」。百両という破格で写本を請け負った男の数奇な運命が語られる表題作に、三島屋の長男・伊一郎が幼い頃に遭遇した椿事「金目の猫」を加えた選りぬき珠玉の全五篇。人の弱さ苦しさに寄り添い、心の澱を浄め流す極上の物語、シリーズ第一期完結篇!

■感想
「開けずの間」は、恐ろしさがじわじわとわいてくる。何か願いを叶える代わりに家族が不幸になる。ある意味、行き過ぎた願掛けが生み出した存在なのだろう。塩断ちが元凶で呼び込んだ行き逢い神。自分たちの願いをかなえてもらう代わりに誰かが死ななければならない。

そして、行き逢い神がいる限り、その不幸が取り払われることはない。まさに呪われた家ということなのだろう。ある意味、人間の弱さも表現している。人の命を犠牲にして自分の願いをかなえてもらえるとしたら、人はお願いをするのだろうか…。

「面の家」は、災いを引き起こす面を守る家の話が語られている。災いを招く面の声が聞こえるのは、罪を犯した者だけ。このことが物語のポイントだろう。詳細を知らされず、面の声を聴くためだけに呼ばれた女中は、のちに自分が呼ばれた意味を知る。

作中では面が逃げ出す音を聴き分け、家の者に知らせることによって面が逃げ出すことを防ぐことができる。面が逃げ出すと町に大火事が起こったりと、とんでもない災いが起こる。そして、市中に逃げ出した面の声を聴くことができる人物が、実は市中には沢山いたというのは皮肉な話だ。

表題作でもある「あやかし草紙」は、写本を請け負った男の数奇な運命が描かれている。法外な大金で写本を請けおうと、そこには自分の寿命が書かれていた。なんとも恐ろしい本だ。中身を読まずに写本することを厳命されていたにも関わらず、思わず読んでしまう。

人は自分の寿命を知ることができるとしたら、怖いもの見たさで見てしまうのだろう。この本の写本は、一度やった者は二度とできないというのも、恐ろしさに拍車をかけている。

おかちが嫁ぎ、次の百物語の聞き役も登場したことで、シリーズとしてはまだまだ続くのだろう。



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