2021.4.8 外圧に負けずヤクザまでも利用する鮫島 【暗約領域 新宿鮫11】
暗約領域 新宿鮫XI 新宿鮫シリーズ11/大沢在昌
評価:3.5
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■ヒトコト感想
新宿鮫シリーズ第11弾。前作で鮫島の上司である桃井が死に、それに関わった陸は逃亡した。本作では新上司の阿坂が登場し、陸も再び関わることになる。最初はヤクの売人の元締めを取り締まるための張り込みであったが、そこから北朝鮮を巻き込んだ殺人事件が起こる。公安、北朝鮮工作員、金石、ヤクザが入り交じりそれぞれの利益のために動き出す。
新宿鮫シリーズの魅力は、鮫島がどのような外圧にも屈せず独自の調査で真実にたどりつく部分だ。今回も、相手がヤクザだろうが公安だろうがお構いなしに、その胆力を発揮している。ラストでは鮫島と相対していた公安の香田やヤクザの幹部の浜川も、いつの間にか鮫島に感謝するようになる。堅物な上司の阿坂が物語の良いアクセントとなっている良作だ。
■ストーリー
信頼する上司・桃井が死に、恋人・晶と別れた新宿署生活安全課の刑事・鮫島は、孤独の中、捜査に没入していた。北新宿のヤミ民泊で男の銃殺死体を発見した鮫島に新上司・阿坂景子は、単独捜査をやめ、新人刑事・矢崎と組むことを命じる。一方、国際的犯罪者・陸永昌は、友人の死を知って来日する。友人とは、ヤミ民泊で殺された男だった―。冒頭から一気に読者を引き込む展開、脇役まで魅力的なキャラクター造形、痺れるセリフ、感動的なエピソードを注ぎ込んだ、八年ぶりのシリーズ最新作は、著者のミステリー&エンターテインメント作家としての最高到達点となった!
■感想
殺害されたのは正体不明の人物だった。鮫島は事件が公安に取り上げられたことから、国益に関する何かを感じ取る。公安がある人物に輸出を依頼する。情報を手に入れるためには何でもありな公安なだけに、殺人犯の逮捕のことなどまったく気にしない。
鮫島はひたすら自分の信じる道を進む。新上司の阿坂が、これまた強烈に正義感にあふれているが、ルールを厳格に守ろうとする。鮫島が情報を得るために浜川と1対1で会うことを頑なに反対したりと、正論で鮫島をやり込めようとしている。
本作のポイントは、終盤まで公安が北朝鮮に秘密裏に輸出しようとした物が何なのかわからないことだ。そのありかを知るのは、北朝鮮工作員に拉致された元ヤクザの権現だけ。鮫島は殺人事件を解決するため、浜川は権現を助けるため、公安は輸出しようとした物を回収するため。
それぞれの思惑が交錯する中で、陸が登場し、それぞれと情報を交換する。皆がお互いの立場はあるが、相手を利用しようとする。心から仲間とは思っておらず、敵対する立場でありながら、表面上は仲間のふりをしているのが強烈だ。
殺人を実行したのは元北朝鮮工作員の殺し屋だった。この殺し屋の存在がうまくいきかけたストーリーを複雑にしている。祖国から裏切られたと思い込んだ殺し屋が、北朝鮮へと復讐する。そして、邪魔するやつをかたっぱしから殺していく。
殺し屋の無秩序さが、陸や香田、そして鮫島たちに混乱を引き起こす。ラストは鮫島の男気により浜川や権現は鮫島側へなびいていくことになる。香田さえも鮫島の行動に感謝することになる。複雑な人間関係がどのように変遷していくのか。長大な作品ではあるが、ページをめくる手が止められない。
シリーズはまだ続くのだろうが、巻をおうごとにすさまじく中身が濃くなっている。
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