絆回廊 新宿鮫10 


 2020.1.15      出所した傍若無人な男の復讐劇 【絆回廊 新宿鮫10】

                     
絆回廊 新宿鮫10 [ 大沢在昌 ]
評価:3.5
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■ヒトコト感想
新宿鮫シリーズ第10弾。ヤクザ、中国残留孤児二世、そして警察組織。すべてを巻き込み、22年の刑期を終えた男が警察への復讐のため動き出す。鮫島が調査する過程で様々な関係者が浮かび上がってくる。そんな中で、中国側を仕切っていた人物が復讐を願う男の息子であったりと驚きの事実が次々と判明してくる。序盤から中盤まで出所した男の無法ぶりがこれでもかと描かれている。

終盤では出所した男のターゲットが桃井であることが判明し、鮫島もふくめ一堂に会する場面が物語のピークだ。終盤はページをめくる手を止めることができない。すべてを仲介したヤクザの吉田は覚悟を決め、誰もが死をいとわない行動をとる。主要キャラクターが犠牲になる程の壮大な物語だ。

■ストーリー
「警官を殺す」と息巻く大男の消息を鮫島が追うと、ある犯罪集団の存在が浮かび上がる。中国残留孤児二世らで組織される「金石」は、日本人と中国人、二つの顔を使い分け、その正体を明かすことなく社会に紛れ込んでいた。謎に覆われた「金石」に迫る鮫島に危機が!二十年以上の服役から帰還した大男が、新宿に「因縁」を呼び寄せ、血と硝煙の波紋を引き起こす!

■感想
22年の刑期を終えて出所した樫原。桃井を狙う高齢の大男だ。過去に樫原に恩があるヤクザの吉田。そして、吉田と取引のある中国残留孤児二世の金石グループ。それらが入り混じり、樫原を匿うオカマや、樫原と生き別れとなり中国で成功した中国側マフィアのボスなどが複雑に絡みあう。

序盤から中盤にかけては樫原の剛腕ぶりが描かれている。銃を調達することに失敗すると金石のメンバーを殴り殺したり、仕返しにきた男たちを圧倒的な力で殺してしまったりもする。この樫原が誤解から桃井への復讐だけを糧に生きているのが強烈だ。

鮫島は早くから樫原の消息を気にしつつ、そのターゲットが桃井と知れると守りに入ろうとする。恋人の晶のグループの薬物騒ぎもあり、満身創痍ながらも桃井を守るために奔走する鮫島。桃井自身は誤解を解くためと他の刑事にとばっちりがいかないようできるだけ少人数で行動しようとする。

吉田ひとりがすべてに板挟みにされるように苦労している。今回は吉田と鮫島のやりとりが全てだろう。丸く収めたいが樫原の暴走を止めることができない吉田。その吉田を追い込もうとする鮫島。強烈な駆け引きだ。

ラストはオカマ店主の飲み屋に樫原とその息子、そして鮫島と桃井が集まってくる。ここで何かしら大きな出来事がある。すべてがキャラ立ちしており、視点がそれぞれのキャラクター向けに次々と変化するのだが混乱することはない。

ただ、唯一樫原の視点では、あまり感情を読み取ることができない。キャラ立ちしていた樫原とその息子。無事逃げおおせた樫原の息子は、その後のシリーズに登場してくることだろう。ラストの激しい戦いと、その後の吉田と鮫島の会話はしびれるものがある。

新宿鮫シリーズの中でも上位に入る内容だ。



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