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 2019.1.9      作者自身を描いた短編集? 【A】
                     
A (河出文庫) [ 中村 文則 ]
評価:2.5
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■ヒトコト感想
中村文則の短編集。「惑いの森」のようなパターンだが、より短編の要素が強い。ただ、相変わらず何を言いたいのかよくわからない短編がある。作者自身をモチーフとした短編や、もしかしたら作者が精神を病みかけているのでは?と思うような短編もある。表題作である「A」は慰安婦の問題を扱ったような短編だ。

何か意味があるのだろうが、その意味をよく理解できないまま物語はすすんでいる。首つりロープの垂れる部屋で、飛び跳ねる三つのボールというのも意味が不明だ。ボールを何かに置き換えることによって意味合いが生まれてくるのだろうか。精神的に病んだ人が書いたような作品に思えなくもない。特殊な短編集であることは間違いない。

■ストーリー
「一度の過ちもせずに、君は人生を終えられると思う?」女の後をつける男、罪の快楽、苦しみを交換する人々、妖怪の村に迷い込んだ男、首つりロープのたれる部屋で飛び跳ねる三つのボール、無情な決断を迫られる軍人、小説のために、身近な女性の死を完全に忘れ原稿を書き上げてしまった作家―。いま世界中で翻訳される作家の、多彩な魅力が溢れ出す13の「生」の物語。

■感想
ひたすら女の後をつける男の話は強烈だ。自分が性的な魅力を感じた女の後をつける。そして、その女が風俗店に入るとがっかりするのだが、そのまま店に入ってしまう。男の欲望はわかるのだが、そこに至るまでの葛藤が気持ち悪いのひとことにつきる。

ある意味異常者というか、精神的におかしくなった者の物語を書かせると、作者の右にでる者はいないのだろう。強烈なインパクトはないのだが、後に残る気持ち悪さがあるのは間違いない。

表題作であもある「A」は、慰安婦問題を扱った作品となっている。戦争に勝つか負けるかによって、その後の状況が大きく変わる。戦争に負けた日本が行ったことを正当化しようとしても難しいという流れとなっている。

慰安婦は現地の人たちが積極的に行っていたという論調には無理があるので、それらを想像し作者が描いた形となっている。歴史的にはセンシティブな内容なので、かなり思い切った作品の流れとなっている。実際にどのようなことが行われたかわからないが、作者の想像する真実がここにある。

中村文則らしい短編集だ。まるで作者自身を主人公としたような、Nという男が登場したり、作家が主人公だったり。作者の実体験に基づいて描かれたとは思わないが、常にこんなことを考えているのでは?と思わずにはいられない。

身近な女性の死を完全に忘れ去り、原稿を書き上げてしまうなんてのは、まさに執筆に熱中するあまりの作者の行動のように思えて仕方がない。本作を受け取った編集者などは、もしかしたら作者の考えが如実に作品に表れていると考えているのかもしれない。

作者の短編の特殊性がよくあらわれている。



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