惑いの森 


 2018.12.5      自虐的なショートショート 【惑いの森】

                     
惑いの森 (文春文庫) [ 中村 文則 ]
評価:2
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■ヒトコト感想
中村文則のショートショート。WEBで連載されていたものをまとめた作品のようだ。連作のような作品もあるが、特別な印象はない。唯一、作者がイニシャルで登場したと思われるショートショートは、作者の日常なのでは?と変な想像をしながら読んでしまった。その他のショートショートはまさに短すぎてよくわからないというのが本音だ。

作者の作品としては、長編でマニアックなネタを扱うのがよい部分だった。それがショートショートでは、作者の魅力がほとんど表現されないまま物語が終わってしまっている。片手間とまでは思わないが、バックグラウンドの濃密な情報があってこそ作者の作品は活きるような気がした。文学的な内容?とごまかすのも苦しいだろう。

■ストーリー
毎夜、午前一時にバーに現われる男。投函されなかった手紙をたったひとり受け留め続ける郵便局員。植物になって生き直したいと願う青年―狂おしいほどに愛を求めながら、満たされず生きてきた彼らの人生に、ふいに奇跡が訪れる。抗えないはずの運命に光が射すその一瞬を捉えた、著者史上もっともやさしい作品集。魔性の50 Stories。

■感想
なんとなくだが、阿刀田高のようなショートショートを狙った作品もある。ブラックユーモアを意識した作品だ。50編もの作品があるので、中にはキラリと光る作品もある。ただ、作品の大多数がよくわからないままサラリと読み終わってしまう感じだ。

宗教をテーマとした連作もあり、作者自身がNとして登場し、その虐げられた生活を自虐的に描いたような連作もある。文庫として読むからこそ連作と気づき、多少楽しむことはできるが、WEBで連載中に本作を読んだら、かなりつらいだろう。

ショートショートにはかなりの技術が必要だということがわかった。短い文章で情景やバックグラウンドを伝え、何かを起こし、しっかりとオチを描く。そこまでを短い文字数でまとめるのはかなりの難易度なのだろう。作者のチャレンジ精神はおおいに買うのだが、向き不向きがあるようだ。

作者の良さは長編でこそ活きてくる。マニアックなネタをショートショートでやろうとすると、かなり厳しい。植物になって生きたい青年の話など、突拍子もなさすぎて意味がわからない

作者独特の個性を感じさせるショートショートもあるのだが、その個性が中途半端な状態で終わっているために、これから面白くなりそうだ、というところでぶつ切りにされている。間をあけて、連作として別のショートショートとして語られる。

売れっ子作家なだけに、突然頼まれた執筆が、あれよあれよという間に2週間に1回の連載となったようだ。作品の中でも数ページにわたる作品もあれば、1ページで終わる作品もある。この違いは、作者がのっていたかいないかの違いだろう。

作者のファンならば、作者の違った面が読めるという意味では、貴重な作品なのだろう。



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