2017.12.9 連合赤軍事件関係者の晩年 【夜の谷を行く】
夜の谷を行く [ 桐野 夏生 ]
評価:3
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■ヒトコト感想
連合赤軍の事件関係者のその後を描いたフィクションだ。連合赤軍事件に関わった西田啓子が主役の本作。正直、連合赤軍事件はあまりよく知らないが、「総括」という名のリンチ殺人があったのは知っていた。事件をテーマとした映画「光の雨」などで、総括の理不尽さはよくわかっている。そんな事件の関係者である啓子が、出所し歳をとってからの生活が描かれている。
事件の反響からひっそりと世間から逃げるように生活してきた啓子だが、姪の結婚により隠していた過去を姪に打ち明けなければならない。事件の当事者たちの苦悩や、同じ仲間たちとの再会など、微妙な心理が描かれている。大きな事件の関係者が、その後老人となった場面を描く作品は新しいかもしれない。
■ストーリー
連合赤軍がひき起こした「あさま山荘」事件から四十年余。その直前、山岳地帯で行なわれた「総括」と称する内部メンバー同士での批判により、12名がリンチで死亡した。西田啓子は「総括」から逃げ出してきた一人だった。
親戚からはつまはじきにされ、両親は早くに亡くなり、いまはスポーツジムに通いながら、一人で細々と暮している。かろうじて妹の和子と、その娘・佳絵と交流はあるが、佳絵には過去を告げていない。そんな中、元連合赤軍のメンバー・熊谷千代治から突然連絡がくる。時を同じくして、元連合赤軍最高幹部の永田洋子死刑囚が死亡したとニュースが流れる。
過去と決別したはずだった啓子だが、佳絵の結婚を機に逮捕されたことを告げ、関係がぎくしゃくし始める。さらには、結婚式をする予定のサイパンに、過去に起こした罪で逮捕される可能性があり、行けないことが発覚する。過去の恋人・久間伸郎や、連合赤軍について調べているライター・古市洋造から連絡があり、敬子は過去と直面せずにはいられなくなる。
■感想
連合赤軍事件。その中心人物ではないが、関係者であり逮捕収監された啓子。刑期を終え出所したが親戚たちから関係を断たれる。啓子自身も世間から逃げるようにひっそりと生活していたのだが…。唯一の肉親である妹の和子とその娘である佳絵。
佳絵の結婚式を海外でやるということになり、過去の犯罪歴での問題が噴出する。一度罪を犯した人は、罪を償ったとしてもその罪は永遠に付きまとう。決して逃れることのできない罪。逆に言えば罪を犯すことがどれだけ自分や周りに大きな影響を与えるかを思い知る作品だ。
決別したはずの過去の仲間から何十年ぶりかに連絡がくる。お互い歳をとっており過去を捨てたはずだが、懐かしさもある。この気持ちはよくわかるが、辛い過去であればその時を一緒に過ごした者とは会いたくないというのが本心だろう。
元恋人と再会するが、恋人の惨状に衝撃を受ける。すべては自業自得かもしれないが、なんだか老人となると憐れみを感じてしまう。過去にどれだけ大事件を起こしたとしても、弱弱しい老人の姿を見せられると、同情心がわいてくるのは確かだ。
連合赤軍事件を追いかけるライターの古市。しつこくスクープを狙うのではなく、どこか啓子たちに協力的な男。この古市がラストに衝撃的な告白をする。連合赤軍事件に興味がなくとも、本作を読むことでどのような事件か気になるのは確かだ。
なぜ「総括」という名のリンチが当たり前のように行われてきたのか。誰もその理不尽な状況に反抗しなかったのか。周囲に流されるというのはあるのだろうが、今の日本で同じような事件が起きるとは到底思えない。
連合赤軍事件の衝撃を感じることができるだろう。
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