罪深き海辺 下 


 2017.9.19      誰が利益を得ているのか 【罪深き海辺 下】

                     
罪深き海辺(下)[ 大沢在昌 ]
評価:3
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■ヒトコト感想
上巻での複雑な人間関係が、下巻ではすっきると整理されている。誰が誰と利害関係があり、トランスリゾートが実はヤクザのフロント企業だったなど。破綻寸前の田舎町で利益を得ようする有象無象の結末が描かれている。すべてを裏で操る黒幕の存在が明らかとなり、その黒幕の目的は衝撃的だ。単純に自分が利益を得ることを考えるのではなく、過去、自分の一族が受けた復讐のために行動する。

刑事である安河内目線で物語が進むのは、干場に秘密があるからだろう。予想通りの展開となるが、複数のヤクザ組織が入り混じり、地場企業のトップや市長までも巻き込んだ壮大な計画。誰が正しいというのはない。みなが他人を出し抜こうと必死になった末の結末となっている。

■ストーリー
最初の死は、九年前、干場の祖母・桑原和枝だ。次に三年後、殿さまが奇怪な死を遂げた。そして、六年後、干場が山岬に現われ、過去のことを調べたとたん、新たな死者が出た。「自分が五人目の犠牲者にならないとも限らない。」安河内は容疑者のアリバイを崩せるか!?長きにわたる連続殺人の謎がすべて明かされる。

■感想
9年前の事件までさかのぼり、事件の黒幕を追いかける安河内。干場がやってきたことで、小さな田舎町に波風が立ち、その結果、殺人事件が起こる。下巻では物語のカギを握ると思われた人物の死や、関係者たちの強い繋がりの理由がはっきりと示される。

干場の遺産がすべて市のものとなったのにはわけがある。最初からすべて、誰かが利益を得るために仕組んだことだった。それが、干場が来たことで、過去を探られることを嫌った者たちによる口封じがスタートする。

誰が黒幕かわからない状態は非常に恐ろしい。怪しげな経営者や市長、はたまた警察署長まで、誰が裏で利益を得ているかわからない。あげくのはてには、ヤクザの親分が、金目当てで引退したりもする。もはや何が真実で誰が一番得をしたのかわからない状態となっている。

そんな中で、安河内の元に干場が戻ってくる。一時的であれば干場がいなくなったことで事態は大きく変化し、干場が戻ってきたことで終局に向けて加速している。安河内が必死に容疑者のアリバイを崩そうとするが、結局干場の登場でそれらが一気に明らかとなる。

黒幕の目的は衝撃だ。なんだかちょっととってつけたような感はある。上巻ではほとんど情報がないまま、下巻でいきなり出てきたような感じだ。財政破たん寸前の田舎町。市長を巻き込み利益を得るために活動していた者の真の目的は復讐にあった。

田舎町の風習というか、狭い人間関係の中では、一度の失敗は大きなダメージとなり町を追い出されることに繋がる。それまでの高い地位から一気に最下層まで落ちる怒りが、そのまま復讐の気持ちとして根付いてしまう。思いもよらない展開であることは間違いない。

干場の正体もある意味想定どおりだ。



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