罪深き海辺 上 


 2017.9.4      来訪者が町をかき乱す 【罪深き海辺 上】

                     
罪深き海辺(上) [ 大沢在昌 ]
評価:3
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■ヒトコト感想
田舎の港町にふらりと訪れた男・干場。実は大地主の遺産相続人ということで、小さな町がざわつき始める。干場が金目当てで町にやってきたのではなく、いつの間にか遺産争いに巻き込まれているというのが正しい状況だろう。干場自身には特別な野心はないが、周りにのせられる形で大地主の遺産を相続しようとする。既得権益を離したくない者。遺産を手放したくない者。それぞれの思惑が干場を仲間に引き入れようとする。

町の権力者たちの目的がよくわからないので、なぜ干場が仲間に引き入れようとされるのかが不明だ。干場のキャラが、どこかのほほんとした感じで、体がでかく力が強い。ハードボイルド的ではないのだが、キャラクターとしての個性はある。

■ストーリー
財政破綻寸前の港町で全財産を寄付し、亡くなった大地主がいた。六年後、遺産相続人の干場という青年が突如現れる。激化する暴力団の抗争、露見する進出企業の陰謀、そして相次ぐ不審死・・・・・・。干場の登場により街に隠れていた毒虫たちが動き出す。本当の悪は誰か? 老刑事安河内が命をかけて真相に挑む。

■感想
主人公が誰なのか、少し右往左往する場面がある。冒頭から干場が登場し、その逞しさをアピールしていることから、干場が主役かと思った。それが途中から老刑事目線となり、干場を仲間に引き入れようとする者たちの怪しげな動きを捜査することになる。

町に隠れていた悪をあぶりだすような物語だ。表面上は、どのような悪が存在しているのかわからないまま、干場はひとりのんびりと町で過ごしている。自分にどれだけの価値があるのかわからないまま、干場の呑気さが周りをざわつかせている。

干場を仲間に引き入れようとする勢力は、地場のヤクザや町へ進出してきた企業だ。干場がいることでどのような利益があるのか、まだこの段階ではわからない。美しい女たちも干場に興味をもつというのが、いかにもなパターンだ。アメフトをやっていたことで体がでかい干場。

そのため、高校生が絡んできてもあっさりと返り討ちにし、ヤクザの下っ端は干場に絡んだはいいが、コテンパンにやられてしまう。物語は老刑事・安河内の視点となり、干場やその周辺を調査する。このパターンの場合、もしかしたら干場には隠された任務があり、素性を隠しながらの行動なのかもしれない。

不審死が続くと、物語はとたんにきな臭くなる。最初は遺産には興味がないという感じだった干場が、いつの間にか遺産を手にするために活動し始める。刑事目線からすると、いかにも干場は怪しすぎる。干場を使って何かをしようとする組織同士の対決。

真の悪はまだ裏に隠れてでてきていない。上巻ということで、不自然な状況が続くのだが下巻ではすべてはっきりするのだろう。強烈なインパクトはないのだが、干場の立場が少し変わっていることが物語を特殊なものとしている。

ふらりと町にやってきた男が、町をかき乱す。



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