書楼弔堂 炎昼  


 2017.5.27      明治の傑物の悩み事 【書楼弔堂 炎昼】

                     
書楼弔堂 炎昼 [ 京極 夏彦 ]
評価:3
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■ヒトコト感想
前作から引き続き連作短編集の形で、悩みを抱えた歴史的偉人が弔堂へやってくる。今回の狂言回し役は、父親や祖父の言いなりになることに我慢ならない塔子が悩み苦しむ。そこに偶然居合わせる形で、弔堂へやってくる歴史的偉人たち。大前提として、登場してくる偉人たちをそれなりに知っている必要がある

あれほどの実績を誇った偉人たちが、実はこんなことで悩んでいた。という作者の想像ではあるが、もしかして?の物語は面白い。勝海舟や乃木大将など有名どころが、悩み苦しみ弔堂で本を紹介され悩みが晴れる。弔堂の店主は、どうしても京極夏彦の代表シリーズである京極堂を連想してしまう。うず高く積み上げられた本の中から、その人の悩みに合う一冊をピンポイントで見つけ出す店主だ。

■ストーリー
時は明治三十年代初頭。気鬱を晴らそうと人気のない道を歩きながら考えを巡らせていた塔子は、道中、松岡と田山と名乗る二人の男と出会う。彼らは、ある幻の書店を探していた――。迷える人々を導く書舗、書楼弔堂(しょろうとむらいどう)。田山花袋、平塚らいてう、乃木希典……。彼らは手に取った本の中に何を見出すのか?

■感想
狂言回し役が前作と変わっている。京極堂シリーズの関口のように、ひとりの人物が毎回弔堂で右往左往するのかと思っていた。本作では女は教育の必要がなく、男の言いなりになっていれば良い風潮に不満をもつ塔子が、様々な人物と弔堂にて物語をすすめていく。

明治の傑物たちが、その後のイメージとは大きく変わる悩みをもっていたという流れだ。衝撃的なのは、戦争で手柄をたて出世してきた乃木大将が、実は戦争に向いておらず、そのことに悩み苦しんでいたという流れだ。

日本の被害を最小に抑えて最大の成果を上げたとしても、ひとりでも自軍の兵士が死ぬと、そのことに苦悩する。本当は心優しい人物だという流れになっている。一般的なイメージを覆すような展開。そして弔堂で憑き物が落ちた時に、実は乃木大将だとわかる。

前作からそうだが、自分が知っている偉人が登場してくると、それだけで大きなインパクトとなる。本作ではほぼ全ての短編に松岡が登場してくる。なんだかウジウジとした男だという印象をもったが、最後の短編で松岡の正体が明かされることになる。

京極堂シリーズよりも、読者に求められるレベルは高い。田舎の書店に大量の書籍があり、そこで自分の悩みにぴったりの本を見つけ出してくれる店。この店主がいったい何者なのかというのもある。ミステリー的な要素はないのだが、最後にその人物の名前が明かされる時の驚きは、ミステリーに匹敵するだろう。

ウジウジとした煮え切らない男である松岡が、のちの柳田國男だと言われ驚かずにはいられない。柳田が過去に描いた作品に基づいて描かれた物語なのだろうが…。

ある程度の知識がなければ楽しめないだろう。



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