砂の狩人 上 大沢在昌


 2015.12.29      ヤクザ、中国人、警察、入り混じる争い 【砂の狩人 上】

                     
大沢在昌おすすめランキング


■ヒトコト感想

北の狩人」から続くシリーズ。狩人というタイトルがついてはいるが、内容はほとんどリンクしていない。新宿のまる暴対応の刑事・佐江が登場するくらいで、キャラクター的なつながりはない。今回は、ヤクザの組長の子供たちが何者かに殺されてしまう。なんの繋がりもなく、一般人として生活していた者たちばかりだ。

極秘に犯人を探ることを依頼されたのは、元刑事の西崎だ。狩人として前作では秋田からやってきた田舎者だったが、本作では元刑事だ。ヤクザ、中国人グループ、殺人を請け負うフィリピンにいる日本人組織。そして警察。複数のグループがそれぞれの利害関係で動き、どこにも所属しない西崎が事件を解決へと動き出す。ヤクザと中国人グループの対決は、衝撃的だ。

■ストーリー

暴力団組長の息子ばかりを狙った猟奇殺人が発生。警察庁の上層部は内部犯行説を疑い、極秘に犯人を葬ろうとした。この不条理な捜査に駆り出されたのは、かつて未成年の容疑者を射殺して警察を追われた<狂犬>と恐れられる刑事だった。

■感想
ヤクザの組長の子供たちが何者かに殺される。ヤクザとは関係なく、一般人として過ごしてきた子供たちが殺される。情報を得ることの困難さを考えると、警察の内部犯行すらも疑われてしまう。そんな中で警察幹部が極秘に事件の調査を依頼したのは、元刑事で山奥で生活していた西崎だ。

ヤクザにも顔が利き、刑事の佐江ともつながりができ、調査を続ける西崎。事件の不可解さと、犯人の目的がわからないだけに、物語は奇妙な恐ろしさがある。ヤクザ側が報復のため、疑わしき中国人グループを攻撃し始めると、泥沼の戦いがスタートすることに…。

恐ろしいのは中国人グループとヤクザたちとの戦いだ。中国人たちを攻撃するのは、フィリピンへ逃げ込んだ日本人の殺人組織だ。この通称マニラグループには強烈なインパクトがある。殺人にまったく躊躇することのない組織。戦いに対して喜びすら感じる者たち。

異常な精神の持ち主たちだが、ヤクザや中国人グループたちに対抗しうる強烈な組織となっている。西崎が調査する過程で、3つの組織とそれぞれコンタクトをとることになる。が、最も恐怖感をおぼえるのは、間違いなくマニラグループだ。

ヤクザの組長の子供たちを殺した者の謎が一番のポイントかもしれない。ヤクザと中国人をお互いに殺し合いをさせ、非合法組織の壊滅を目指す。物語の流れ的には、警察組織の犯行のように思えてくる。それを元刑事で不祥事を起こした西崎が調査する。

きな臭い香りが漂う中で、中国人グループにもコネができた西崎がどのような立ち回りをするのか。一つ間違えればあっさりと命を失う危険がつきまとう流れ。下巻へ向けての謎は深まるばかり。マニラグループの極悪非道ぶりが、どのような結末を迎えるのか興味深い。

下巻へ向けて強烈な引きの強さがある。



おしらせ

感想は下記メールアドレスへ
(*を@に変換)
pakusaou*yahoo.co.jp