スカラムーシュ・ムーン 海堂尊


 2016.2.23      青春起業物語風? 【スカラムーシュ・ムーン】

                     
スカラムーシュ・ムーン [ 海堂尊 ]
海堂尊おすすめランキング
■ヒトコト感想
ナニワ・モンスター」から続く作品。新型インフルエンザに対する必要以上の報道の是非を描いた作品だが、そこから独自にワクチンを製造する施設へ繋がる。本作では、ワクチン製造のために有精卵が必要であり、大量の有精卵の確保のむずかしさと、輸送の困難さが描かれている。ただ、それらはすべて明らかに橋下市長をイメージしたキャラを登場させ、日本を三つに分ける政策を成就させる流れとなる。

彦根が主人公の本作。つかみどころがないのは相変わらずだが、「スリジエセンター1991」の天才外科医・天城の遺産なども登場し、すべては繋がっているという流れが作られている。作者の主張であるAIセンターについての記述が控え目なのも特徴だろう。

■ストーリー

僕は、日本という国家を治療したい――海堂サーガ、遂にクライマックスへ! もうすぐ「ワクチン戦争」が勃発する!? 新型インフルエンザ騒動で激震した浪速の街を、新たな危機が襲った。霞が関の陰謀を察知した医療界の大ぼら吹き・彦根新吾は壮大な勝負を挑むべく、欧州へ旅立っていく。浪速を、そしてこの国を救うことはできるのか。

■感想
日本の医療の問題点をわかりやすく、そしてドラマチックな展開で読ませてくれる作者の作品。本作も、新型インフルエンザに対するマスコミの必要以上の警戒による弊害の後日談的流れが描かれている。東京を中心とする日本の一点集中型を否定し、浪速に拠点を作ることが医療の面でも必要だというストーリーなのだろう。

日本を改革するようなドラスティックな政策を実現するために、明らかに橋下市長をイメージしたような浪速府知事を登場させ、彦根と組むことで西日本を独立させようとする。ありえない展開でも彦根が語ると現実的のように思えるから不思議だ。

天才外科医・天城の遺産を有効活用しようとする彦根。モナコから運び出すことができない莫大な資産を、どのように有効活用するのか。作中で語られる方式は信じられないようなことだが、現実性があるようにすら思えてくる。

資金を用意し、政治的なリーダーがそろう、あとは彦根が裏で暗躍し実現するだけ。そこでお決まり通り既得権益にしがみつく邪魔者たちが登場してくる。ワクチンセンターというパンデミックに対応するために作られた施設が、すべての鍵を握ることになる。

ワクチンセンターを運用する上で、有精卵が必要だというのは意外だ。ワクチンの作り方から始まり、有精卵を確保する方法と、輸送の困難さ。若者たちが起業し壁にぶつかりながらも乗り越えていく。ちょっとした青春起業物語的な要素がふくまれている。

日本を三つに分けることが日本を救うというストーリーのようだが、現実はそううまくいかない。実際に橋下市長の大阪都構想が実現しなかったのと同様に、本作でも結論は現実路線となっている。

医療や作者が主張するAIについては抑えられた内容となっている。



おしらせ

感想は下記メールアドレスへ
(*を@に変換)
pakusaou*yahoo.co.jp