ナニワ・モンスター 


 2014.6.7     世間を騒がすパンデミック騒動 【ナニワ・モンスター】  HOME

                     

評価:3

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■ヒトコト感想

新型インフルエンザに対する必要以上の報道について描きつつ、作者のいつもの主張であるAIセンターについて語っている。実在の人物をイメージさせるようなキャラクターを登場させ、それらをたくみに物語の主張へ組み込んでいる。浪速で発生した新型インフルエンザ患者。浪速は大阪で当時の橋下府知事をイメージさせるキャラも登場する。

致死性の低いウィルスを、さも重大ウィルスのように扱い、何らかの考えがあるように思わせる本作。検察、厚生省、警察、医療関係者。それらを含めた複雑な物語となっている。前半と後半でかなり雰囲気が変わってくるので、戸惑うかもしれないが、最終的に何が言いたいのかはしっかりと整理されている。

■ストーリー

浪速府で発生した新型インフルエンザ「キャメル」。致死率の低いウイルスにもかかわらず、報道は過熱の一途を辿り、政府はナニワの経済封鎖を決定する。壊滅的な打撃を受ける関西圏。その裏には霞が関が仕掛けた巨大な陰謀が蠢いていた―。風雲児・村雨弘毅府知事、特捜部のエース・鎌形雅史、大法螺吹き・彦根新吾。怪物達は、この事態にどう動く…。

■感想
浪速で発生したインフルエンザ「キャメル」。パンデミック騒動は、一昔前のSARSをほうふつとさせる。が、もし、そのキャメルが弱毒性にも関わらず、必要以上に世間で騒がれたとしたら。その結果、不利益を被る人がいたとしたら。

マスコミや厚生省の動きひとつで、パンデミック騒動は大きく変わることがよくわかる。そして、世間は報道によっていかようにもなるということだ。季節性のインフルエンザで毎年一万人は死んでいることに驚きつつも、そのことをマスコミが話題にしない限り、世間で騒がれることはない。

前半は、パンデミック騒動を描き、後半は、その仕組まれたパンデミックの真の目的が語られている。本作のような流れが存在するとは思えないが、もし、現実世界で起きていたとしたら恐ろしい。そう思わせるよう実在の人物をイメージさせるキャラを登場させ、巨大な組織同士の戦いを描いている。

霞が関と浪速の戦い。革新的な知事が登場し、中央に噛みつくと、それを排除しようとする勢力がでてくる。現実世界もそうなのだろうか。そんな理由でパンデミック騒動が引き起こされたとしたら、一般市民にはとんでもない迷惑だ。

作者のシリーズではおなじみのキャラが登場する。彦根であったり斑鳩であったり。となると、流れはあるひとつの方向へ進んでいく。作者のライフワークともいうべきAIセンターについてだ。ここでも解剖についての重要性が語られ、AIセンターの重要性と、それを妨害する勢力の話が続いている。

世間を騒がす知事や市長の言動を利用し、対立構造を描き、それをさらに飛躍させAIセンター設立にまで続けてしまう。この強引さにはかなり驚いた。作者にすれば、世間のニュースすべてを利用してでも、成し遂げたいことなのだろう。

パンデミック騒動については、マスコミに踊らされる市民にも責任はあるが、それはしょうがないことなのだろう。



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