真実の10メートル手前 米澤穂信


 2016.8.1      人の心理を読み解き謎を解く 【真実の10メートル手前】

                     
真実の10メートル手前 [ 米澤穂信 ]
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■ヒトコト感想
さよなら妖精」と「王とサーカス」の太刀洗がミステリアスな事件を解明する短編集。他作品を読んでいなくとも、純粋なミステリーとして楽しめる。フリージャーナリストの太刀洗は、寡黙であり、雄弁に語るのではないが、真実を突いた質問を相手に突き刺す。太刀洗がどこまで事態を把握しているのかがポイントなのだろう。

太刀洗は人の心理を読み解いて真相を解明する。それは、非常に残酷な結末でもあり、驚きもある。作中に登場してくる事件は、そこまで現実感はない。太刀洗に分析させるために作り上げた事件のように感じられる。ジャーナリストとしての太刀洗の、現場周辺での振る舞いもまた、面白い部分ではある。

■ストーリー

高校生の心中事件。二人が死んだ場所の名をとって、それは恋累心中と 呼ばれた。週刊深層編集部の都留は、フリージャーナリストの太刀洗と 合流して取材を開始するが、徐々に事件の有り様に違和感を覚え始める……。太刀洗はなにを考えているのか? 滑稽な悲劇、あるいはグロテスクな妄執――己の身に痛みを引き受けながら、それらを直視するジャーナリスト、太刀洗万智の活動記録。

■感想
「正義感」は最も印象的な作品だ。目の前で列車の人身事故を目撃した男目線の物語だ。そこで必要に事故を取材しようとする女が目につくのだが…。事故現場であからさまに写真を撮り近づく女は奇妙で恐ろしい。

男が客観的な目線で奇妙な女を見て、嫌悪感をいだく物語だ。が、後半にはその女が実は太刀洗だということが判明する。なぜ太刀洗はそのような行動をとったのか。目の前で人身事故が発生した際に、人がとる行動を心理的に分析した物語だ。

「名を刻む死」は非常に特殊だ。ある老人が死んだ。第一発見者である少年は苦悩する。老人が生前力をいれていたことは新聞への投書だ。非常に気難しい老人ではあるが、自分の死期を悟った時にどのような行動にでるのか。

オチは特殊だ。気持ちがよくわからないといった方が良いかもしれない。自分は何者でもなく死んでいくのか、それとも…。名を残して死にたいと思う人は、世間にどれくらいいるのだろうか。大刀洗の信じられないような推理力が光る作品でもある。

「ナイフを失われた思い出の中に」は、非常に残酷な作品だ。幼いこどもが胸にナイフを刺されて殺されていた。近所に目撃者がいたため容疑者はあっさりとつかまる。そこで大刀洗がフリーのジャーナリストとしての能力をはっきする。

いったい太刀洗はどこまでわかっているのか。よくある探偵小説のように、名探偵はすべてをわかっていながら、なかなか答えを口にしない。そんなもどかしさを感じながら、太刀洗の推理が展開されると、すんなりと納得できる結末となっている。

人の心理を分析した推理は秀逸だ。



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