さよなら妖精 米澤穂信


 2015.1.20      ユーゴスラビアの少女の行く末 【さよなら妖精】

                     

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■ヒトコト感想

日常に潜む謎を描いた作品。高校生の守屋の目の前に突如あらわれた少女マーヤ。ユーゴスラビア出身ということで日本語に疎く、日本の習慣にも詳しくない。そこでマーヤが日常で疑問に思うことを、守屋が推理を働かせ解決するという流れだ。古典部シリーズの流れをくむ作品なので、キャラクターが古典部シリーズに近い。守屋は折木と似ており、マーヤは千反田というとことなのだろう。

守屋へ適切なアドバイスをする太刀洗の存在がある。「傘を持ちながら傘を差さずに走り去った男」の謎を解き明かしたり、マーヤの故郷ユーゴスラビアで、マーヤはどの場所に帰ったのかなど、非常に高度でありながら日常に沿った話題というのが良い。

■ストーリー

一九九一年四月。雨宿りをするひとりの少女との偶然の出会いが、謎に満ちた日々への扉を開けた。遠い国からはるばるおれたちの街にやって来た少女、マーヤ。彼女と過ごす、謎に満ちた日常。そして彼女が帰国した後、おれたちの最大の謎解きが始まる。

覗き込んでくる目、カールがかった黒髪、白い首筋、『哲学的意味がありますか?』、そして紫陽花。謎を解く鍵は記憶のなかに―。忘れ難い余韻をもたらす、出会いと祈りの物語。

■感想
古典部シリーズの流れをくんだ作品。守屋がマーヤと出会い、ユーゴスラビアからやってきた日本を勉強中のマーヤの様々な疑問に守屋が答える本作。基本的にマーヤでなくてもわからない日常の謎が描かれている。

日本に古くから伝わる習慣や伝統を元にした謎や、状況により発生した謎など、マーヤが素朴な疑問を提唱し、それにこたえる形で守屋や太刀洗が丁寧に対応してくれる。相変わらずキャラが大人だ。厭世的というか、高校生らしいフレッシュな雰囲気がないのが特徴なのかもしれない。

高校生の男女のグループ交際的な雰囲気がありながら、浮ついた気分はいっさいない。どこかストイックというか古典部シリーズの折木に似た、よけいなことはしたくない、という雰囲気がでている。そこそこの成績で特別何かに熱くなるわけでもなく、日常をのんびりすごす。

マーヤという異物が入ってからも、そのスタンスは変わらない。ただ、守屋の中でのマーヤはかなり大きな位置を占めているというのは容易に想像ができる。ユーゴスラビアまでマーヤを追いかけて行こうとするのは、明らかに守屋的ではない。

マーヤが帰ったのはユーゴスラビアのどこなのか。比較的安全なクロアチアやセルビアなのか、それとも紛争が続くボスニア・ヘルツェゴビナか。このあたり、ユーゴスラビアの民族紛争についてまったく知識はないが、非常に勉強になった。

どのような問題があり、なぜ紛争が起きたのか。そして、独立を目指す意味は。マーヤの残したヒントから、マーヤがどこに帰ったかを推理する守屋。その鮮やかな推理力から、最も想像したくない最悪の場所が導き出されることになる。

古典部シリーズが好きな人は、間違いなくはまる作品だ。



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