王とサーカス 米澤穂信


 2016.3.24      実際に起こった王族殺人事件のミステリー 【王とサーカス】

                     
王とサーカス [ 米澤穂信 ]
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■ヒトコト感想
実在の事件をベースとしたシリアスなミステリー。「さよなら妖精」とキャラは同じだが、別物と考えてよいだろう。ネパール王朝での王族殺害事件。これが本作の創作ではなく、実際に起こった事件ということにまず衝撃を受けた。太刀洗がたまたまネパールに居合わせたため、記者として記事のために調査することになる。ジャーナリストとして、大事件を扱う気持ちの高揚。そして、奇妙なつながりから、王室を警備する軍人へインタビューできることになるのだが…。

ネパールという国で大刀洗はひとりの日本人として取材をする。そこで交わされる会話は、納得できるものばかりだ。ネパールにおける日本の位置づけはどのようなものなのか。ミステリーの裏に国家間の関係が描かれている。

■ストーリー

2001年、新聞社を辞めたばかりの太刀洗万智は、知人の雑誌編集者から海外旅行特集の仕事を受け、事前取材のためネパールに向かった。現地で知り合った少年にガイドを頼み、穏やかな時間を過ごそうとしていた矢先、王宮で国王をはじめとする王族殺害事件が勃発する。

太刀洗はジャーナリストとして早速取材を開始したが、そんな彼女を嘲笑うかのように、彼女の前にはひとつの死体が転がり……。「この男は、わたしのために殺されたのか? あるいは――」疑問と苦悩の果てに、太刀洗が辿り着いた痛切な真実とは?

■感想
「さよなら妖精」の太刀洗が主人公の本作。雑誌編集者としてネパールの地に降り立ち、そこで衝撃的事件に遭遇する。ネパールの王族殺人事件だ。まず、この事件が実際に起こったということに衝撃を受けた。

王族を殺したのは王子であることにさらに衝撃を受け、裏ではきな臭い推理が展開されているらしい。本作では王族殺人事件を推理する物語ではない。王族殺人事件について、それなりに推理されてはいるが、メインは別のところにある。太刀洗が泊まる宿で出会うさまざまな者たちとのつながりで前にすすむ物語だ。

太刀洗は宿でのつながりから、そこに泊まる人々と交流をもつことになる。そこからのつながりでネパールの王族を警備していた軍人へ話を聞けることになる。ここから太刀洗の記者としての葛藤が始まる。太刀洗と軍人の会話が秀逸だ。スクープをとりたい太刀洗と、太刀洗へ情報提供することでどのような意味があるのか説明せよと迫る軍人。

ネパールと日本の関係で、日本語で書かれたスクープが世界へどのように浸透していくのか。この部分は非常によくわかる。世界へ、ネパールで起こっていることを発信しようとするならば、日本語では問題があることは明白だ。

物語は急激にミステリアスな展開となる。それは、太刀洗がインタビューした軍人が死体となって太刀洗の目の前に現れたからだ。内部情報をリークしたため殺されたのか、それとも…。思わぬところからの悪意により、太刀洗は罠にはめられたことになる。

ネパール王族殺人事件という巨大な事件に惑わされてしまうが、太刀洗の近辺で、ひそかな悪意が育てられていたということなのだろう。海外で、もし太刀洗が大誤報をしたとしたら、太刀洗のジャーナリスト生命は終わりを迎えていたはずだ。

実在の事件を絡め、ミステリアスな展開を演出している。



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