船上にて 若竹七海


 2015.12.10      ストーカーへの断りの手紙の文例 【船上にて】

                     
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■ヒトコト感想

ミステリー短編集。ただのミステリーではなく非常にバラエティ豊かだ。ちょっと変わった手紙のフォーマットだったり、ひたすら自分語りを続ける女性の物語だったり。果ては「製造迷夢」の一条刑事が登場したりと様々だ。表題作がやはり一番インパクトがあるように思われるが、ナポレオンの頭蓋骨という部分での不思議さのみが印象に残っている。

屋上から突き落とされたOLがひたすら犯人を推理する「優しい水」などは、作者らしくないブラックなオチの短編となっている。作者のコージーミステリーに慣れている人は、意外な展開に驚くかもしれない。オチを読んでびっくりする類の作品ではないが、ミステリーとしての面白さはある。

■ストーリー

「ナポレオンが三歳の時の頭蓋骨!?」。欧州行きの豪華客船の中で、若き富豪が大枚をはたいた宝物が姿を消した。盗む価値など無いはずなのになぜ?そこには意外な盲点が(表題作)。屋上から突き落とされたOLが、混濁した意識の中で推理した事件の真相とは?(「優しい水」)。鮮やかなプロットで描く、人々の「密やかな悪意」。著者自選の傑作ミステリー8編を収録。

■感想
「優しい水」は、作者らしくないということでインパクトがある。OLのあたしは、屋上で何者かに突き落とされ、ビルとビルの隙間で意識を取り戻すのだが…。ひたすら自分を突き落した人物の推理が展開されている。ミステリーの定番として、様々な推理を展開し、これしかないという犯人にたどりつく。

そして、体が動かないまでも、警察が助けに来たときに、犯人を忘れないようにダイイングメッセージ的に犯人の名前を書く。様々な推理を展開するが、結末はあまりに悲しいというか、ブラックなオチとなっている。

「黒い水滴」は、離婚した元夫の死を知り、義理の娘の渚と再会する物語だ。火曜サスペンス的なミステリアスな流れがある。元夫の死だけでなく、その妻までも死ぬ。となると、犯人は必然的に登場人物の中で限られた人物となる…。

「製造迷夢」の一条刑事が登場し、ラストに良い部分をすべて持っていってしまう。ただ、あれほどインパクトのある描き方をしていた顔の傷については、いっさい触れていないのはなぜだろうか。物語に直接関係する部分ではないのだが、ファンとしては、ちょっとしたところでもうれしくなるはずだ。

「手紙嫌い」は、珍しいタイプの作品だ。手紙嫌いの主人公がどうしても手紙を書かなければならなくなったとき、参考に文例集を見ることにしたのだが…。文例集が日常ではありえない文例ばかりなので、コメディか?とすら思ってしまう。

ストーカーに対する断りの手紙や、最後には遺書まで。こんな文例集があったら興味本位で読みたくなってしまう。そして、ラストでは驚きの真実が隠されている。確かにラストは衝撃的だ。今までのコメディ感がぶっとんでしまう。

バラエティに富んだ短編集であることは間違いない。



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