製造迷夢 若竹七海


 2015.12.7      サイコメトラーを駆使する 【製造迷夢】

                     
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■ヒトコト感想

モノに残っている残留思念を読むことができる女・井伏美潮と刑事の一条風太の物語。サイコメトリーの能力がある美潮が事件を解決する物語ではない。基本は一条が事件を調査し、その過程で美潮の能力が事件解決へのヒントとなる。ミステリー的なトリックだとか、不可解な事件というよりも、犯人の動機や事件に至るまでの過程を解き明かすといった感じの作品だ。

前世での恨みを晴らすために攻撃的になる12歳の少女。普通に考えるとありえない展開なのだが、奥底に隠された真実を暴くことで、答えがみえてくる。後半の短編になると、一条と美潮がお互い気になる存在だが、言葉に出せないという状態となる。サイコメトラーの美潮に隠し事はできないため、結局のところ、結末はある程度想定のパターンとなる。

■ストーリー

渋谷猿楽町署内で奇妙な事件が発生。クスリで保護された12歳の少女が、同時刻に逮捕されてきた万引き主婦のふくらはぎに噛みついたのだ。少女は、「前世で、その主婦が私を殺した復讐だ」と主張。猿楽町署の刑事・一条風太と、モノに残っている残留思念を読む“心の探偵”井伏美潮のコンビが事件の謎を解いてゆく。

■感想
「天国の花の香り」は、自殺した作曲家の真相を突き止める物語。美潮との出会いのエピソードが含まれており、サイコメトリーの能力により真相が判明するという流れだ。自殺した作曲家が、同じ時刻に曲を吹き込んだテープを残していた。

残留思念を見るといっても、映像が見えるわけではないというのがポイントなのだろう。本人が思い込むことで、残留思念としたは別人の思いを感じる場合もある。マンガ的に絵が見えればわかりやすいのだが、あえてそうしないことが、小説作品としてのポイントなのだろう。

表題作でもある「製造迷夢」は、前世で殺されたから復讐するという12歳の少女の物語。前世は存在するのか。一条が諸条件を調査することにより、次第に状況が明らかとなる。ラストが非常にショッキングであり、ミステリアスな印象も強い。

12歳の少女を凶行に走らせた原因は何なのか。そして、歪な親子関係の中に隠された真実は…。美潮が活躍するのだが、それよりも一条の執念というか、調査に対するこだわりというのを感じさせる短編かもしれない。表題作ということもあり、作中では最も印象に残る短編だ。

「寵愛」は、短編としてラストを飾るにふさわしく、一条と美潮の関係が深まる展開となっている。エリート医師のたまごが犯罪を犯す。それは好きな相手のためだったのか…。非常につらく苦しい物語だ。登場人物たちそれぞれが不幸であり、どこか悲しみと共に、異常な感情を持ち合わせている。

さらには、事件のきっかけとして美潮も関係しているのかも?という流れとなる。サイコメトリーの能力を持つ占い師として美潮が存在した場合、その的中率に客はひっきりなしだろう。一条と美潮の恋模様も見逃せない部分だ。

一昔前、マンガで流行ったサイコメトリーを、流行りものということで小説化したのだろうか。



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