さよならの手口 若竹七海


 2016.8.22      葉村シリーズの特徴が凝縮 【さよならの手口】

                     
さよならの手口 [ 若竹七海 ]
若竹七海おすすめランキング
■ヒトコト感想
葉村晶シリーズ。シリーズを読んでいなくとも楽しめるようになっている。二十年前に家出した娘を探してくれと依頼される葉村。有名女優の、父親が不明な子供ということで昔話題となり、調査した探偵が消息不明というきな臭い調査だ。葉村の行動はまっとうなのだが、他者の悪意が相変わらず強烈だ。

依頼とは別に偶然知り合った女と意気投合し、葉村が住むシェアハウスを紹介したり。警察ににらまれ、スパイ絡みのことをやらされたり。正式な探偵ではないので、大手の探偵事務所に仮所属したり。ごちゃごちゃとした流れだが、適切に整理されており、ミステリアスな展開はすさまじい。なぜ娘は失踪したのか。そこには誰もが想像しえない衝撃的な理由があった。

■ストーリー

探偵を休業し、ミステリ専門店でバイト中の葉村晶は、古本引取りの際に白骨死体を発見して負傷。入院した病院で同室の元女優の芦原吹雪から、二十年前に家出した娘の安否についての調査を依頼される。かつて娘の行方を捜した探偵は失踪していた―。

■感想
タイトルの意味は後半に判明してくる。さよならを言わずに突然消息を絶つ人物が本作には多数登場してくる。それぞれに理由がある。が前半ではなぜ?という思いばかりが強くなる。そして、普通に考えるのは、失踪した側に理由があるはすだが、そうではないパターンも…。

二十年前に失踪した人物を探すために、足取りをたどる調査は非常に興味深い。微かな手がかりからターゲットの情報を得るための仕掛けがすばらしい。そして、葉村がなにかと心の中で毒を吐くのがこのシリーズの醍醐味でもある。

失踪者を探す依頼とは別に、葉村が知り合った四十歳の図々しい女の存在がある。この女がまた強烈だ。最初は葉村と仲良くしていたが、いつの間にか他者のプライベートにずけずけと入り込み、果ては葉村をシェアハウスから追い出そうとする。

葉村と女の関係が悪化した原因はいろいろとあるが、葉村の怒りの気持ちは読者にまで伝わってくる。作者はこのシリーズでは、これでもかと相手に対する悪意やこちらに対する悪意を描いてくる。その悪意に対して同じく読者が怒りの気持ちを覚えるのは作者の策略なのだろう。

中盤から後半にかけて怒涛の謎解きはすさまじい。二十年前に失踪したと思われた娘は、実は失踪していなかった。数々の行方不明者の存在も明らかとなり、ひとつの事件の結末としてはあまりに情報量が多すぎてすんなりとは理解できない。

しかし、二十年前から続く恨みの連鎖というものを感じずにはいられない。過去の事件を調査した探偵が失踪した理由は、さらに衝撃だ。一見繋がりがあるようだがない。さよならを言わずに行方をくらませた者たちは、言えない理由があったということなのだろう。

葉村シリーズの特徴が凝縮されている作品だ。



おしらせ

感想は下記メールアドレスへ
(*を@に変換)
pakusaou*yahoo.co.jp