2015.1.16 厭世的雰囲気 【プレゼント】
■ヒトコト感想
トラブルメーカーの葉村晶と、子供用自転車を愛用する小林警部補の短編集。キャラの個性により特殊な魅力のある作品だ。小林警部補のどこかほのぼのとした雰囲気と、葉村のすべてを憎むようであり、厭世的である雰囲気が特殊だ。特に葉村は何かにつけて悪意をふりまいている。幸せで穏やかな生活とは無縁で、常に嫌な知り合いが葉村とかかわってくる。その結果、トラブルに巻き込まれ危険な目に合う。
葉村が様々な職業で経験する出来事が面白い。特に、人を自殺に追い込む恐怖の仕事については強烈なインパクトがある。小難しい密室やトリックがあるわけではなく、葉村のキャラクターが個性を生み出している。小林警部補は葉村のパートでささくれだった気持ちを和らげてくれる効果がある。
■ストーリー
ルーム・クリーナー、電話相談、興信所。トラブルメイカーのフリーター・葉村晶と娘に借りたピンクの子供用自転車で現場に駆けつける小林警部補。二人が巻き込まれたハードボイルドで悲しい八つの事件とは。間抜けだが悪気のない隣人たちがひき起こす騒動はいつも危険すぎる。
■感想
「ロバの穴」は、衝撃的だ。人の悩みを聞くコールセンター的な仕事に転職した葉村。そこで、同僚の老人が自殺したのだが…。人の悩みを聞くうちに、他人の気持ちに共感しすぎて心を侵食され、その結果自殺へと追い込まれてしまう。異常に自殺率の高い仕事は存在するのだろうか。
本作のように、肉体や精神とは別に頭の中が壊される仕事は恐ろしい。そして、それを見越して殺したい相手をその職業に斡旋する。想像を絶する流れだが、葉村がかかわると、その流れも真実味をおびてくるから不思議だ。
「あんたのせいよ」は、まさに葉村晶シリーズを象徴しているような作品だ。常に誰かに責任を負わせようとする人々。他人のせいにすることで自分の気持ちをコントロールする。その極めつけのパターンが本作だ。殺人事件があり、そこに絡むことになった葉村が感じた異常な犯人の心理。
あれが悪い、これが悪い、とよく言う人がいる。そう言ったところで何も変わらないのだが…。葉村自身にもその傾向はある。葉村が幸せでウキウキするという描写は一切存在しない。どことなく、常に怒りの気持ちを持つ葉村のイメージをそのまま投影したような作品と思った。
葉村関連の作品に比べ、小林警部補の作品は全体的にほのぼのしている。犯人が様々な仕掛けをするが、それをあっさりと小林が看破する。部下の御子柴がちょっと間抜けな感じなのも良い。ミステリー的なタネ明かしというよりも、人の心の雰囲気を感じ取り事件を解決するような感じだ。
葉村と小林の短編が交互に並んでいるのは、葉村で沈んだ心を小林で癒すような感じなのだろうか。キャラクターの個性では、間違いなく葉村の方が立っている。が、気持ちがすっきりするのは小林の短編だろう。
葉村シリーズは、常に怒りや憎しみを内包しているような気がする。
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