最終退行 池井戸潤


 2015.4.8      ドロドロとした銀行内部 【最終退行】

                     
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■ヒトコト感想

銀行を舞台にした不正を暴く物語。「オレたちバブル入行組」と違うのは、主人公が副支店長という上の立場であるということだ。リストラされる立場ではあるが、する立場でもある。ある程度の地位があったとしても、銀行内部ではさらに上の立場の者たちから厳しい攻撃を受ける。頭取や室長など、かなり上の立場の者たちの不正を嗅ぎ取り、上に媚びへつらう状況から脱出しようとする。

M資金に関する巨大な詐欺事件や、儲け話に群がる魑魅魍魎たちとの対決。本作を読むと、銀行業務というのは非常に多岐にわたり、取引先企業が宝探しをメインとしているなんてことは、許されることではないのだろう。M資金詐欺に関わる巧みな罠とサラリーマンとしての反抗が描かれている。

■ストーリー

都市銀行の中でも「負け組」といわれる東京第一銀行の副支店長・蓮沼鶏二は、締め付けを図る本部と、不況に苦しむ取引先や現場行員との板挟みに遭っていた。一方、かつての頭取はバブル期の放漫経営の責任をもとらず会長として院政を敷き、なおも私腹を肥やそうとしている。

リストラされた行員が意趣返しに罠を仕掛けるが、蓮沼はその攻防から大がかりな不正の匂いをかぎつけ、ついに反旗を翻す。日本型金融システムの崩壊を背景に、サラリーマン社会の構造的欠陥を浮き彫りにする長編ミステリー。

■感想
都市銀行の副支店長は、今までの作者の物語では、リストラする側の悪の根源的立場であった。それが、本作では副支店長として、さらに上の立場の者たちから、激しく攻め立てられる立場であることが描かれている。当然のことだが、社長だとしても圧力にさらされる。

わかりやすい対立関係は上司部下などがある。副支店長の蓮沼が、自分の立場を考えつつ、反抗的な部下をやむおえず地方へ出向させたり、自分自身もまたリストラにおびえたりと、サラリーマンの悲喜こもごもが描かれている。

蓮沼が出向を告げた部下は銀行を辞める。M資金に関わる詐欺を働くような組織と付き合いだす元部下。蓮沼はそれらの組織を調査する過程で、銀行の頭取をも巻き込んだ巨大な組織ぐるみの不正を見つけてしまう。副支店長まで上りつめたエリート銀行員が、内部の不正を告発できるのか。

家族との冷え切った関係や、銀行内不倫など、今までの作者の作品とは一味違う主人公だ。誰もが思い描くわかりやすい幸せな家庭や、清廉潔白な正義の銀行員というわけではない。わかりやすく善が悪を倒すというのではない。ただ、銀行内部のドロドロは感じることができる。

M資金絡みの詐欺は面白い。騙したかと思いきや、騙されたと気づいた方が、騙した方をまた騙し返そうとする。M資金と言えば、つい「人類資金」を思い浮かべてしまう。まったくの別物だが、M資金という言葉には人を惹きつける魔力があるようだ。

巨大な詐欺、銀行と関連企業の予定調和的な不良債権処理。いつの世も、常に弱い者ばかりが割をくう世の中だ。支店長の谷が中小企業に対して無理やり融資を引き揚げ、その結果、企業が倒産する。数億で倒産したかと思えば、数千億を免除したり。なんだか悲しくなるようだが、これが真実なのだろう。

どこか半沢直樹を思わせる蓮沼だが、不倫あり冷えた家族というのが大きな違いだろう。



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