評価:3
2017.5.11 アリが象を倒す醍醐味 【陸王】
陸王 [ 池井戸潤 ]
評価:4
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■ヒトコト感想
池井戸潤作品のエッセンスがたっぷりと詰まった作品だ。田舎の小さな足袋工場がランニングシューズ業界へ殴り込みをかける。新規事業を立ち上げ前にすすむが、次々と障害が目の前に立ちふさがる。資金繰り、ライバル企業の妨害、そしてウルトラCの解決策。
ワンパターンかもしれないが、読むと熱くなれるのは確かだ。ひとつの困難を乗り越えると、一瞬明るい雰囲気になり、うまくいきそうになると、次の問題に直面する。基本はこの繰り返しだで、妥協することなく最後はハッピーエンドになる予定調和的ではあるが、強烈な引きの強さがある。「下町ロケット」や「半沢直樹シリーズ」と同様と言ってしまえばそれまでだが、それらが好きな人は、間違いなく楽しめるだろう。
■ストーリー
勝利を、信じろ。足袋作り百年の老舗が、ランニングシューズに挑む。このシューズは、私たちの魂そのものだ!埼玉県行田市にある老舗足袋業者「こはぜ屋」。日々、資金操りに頭を抱える四代目社長の宮沢紘一は、会社存続のためにある新規事業を思い立つ。
これまで培った足袋製造の技術を生かして、「裸足感覚」を追求したランニングシューズの開発はできないだろうか?世界的スポーツブランドとの熾烈な競争、資金難、素材探し、開発力不足―。従業員20名の地方零細企業が、伝統と情熱、そして仲間との強い結びつきで一世一代の大勝負に打って出る!
■感想
老舗足袋工場が100年の歴史に幕を閉じるのか。ジリ貧となった業績を回復させるため、新素材を使ったランニングシューズ開発に取り組む。まず第一の障害としては、ソール部分の開発にある。ランニングシューズの肝とも言うべきソール。
画期的な素材でソールを開発するために、さまざまな難題が待ち受ける。中小零細企業社長の宮沢が、情熱とアイデアで難局を乗り越える。ソールの次はシューズのアッパー素材で、さらには有名選手に履いてもらうことの難しさもある。ランニングシューズ開発の困難さがこれでもかと描かれている。
小さな田舎の足袋工場にそれぞれのプロフェッショナルが集まり、巨大メーカーと対決する。このあたりのワクワク感はすさまじい。皆、利益度外視に夢を追いかけている。定番的ではあるが、小さな蟻が大きな象を倒すべく前に突き進む場面は熱い思いがわいてくる。
それまで威張り散らした大手メーカーの担当者が、青い顔をして慌てふためく。まさに一発逆転の爽快感に満ちている。が、それだけでは終わらず、今度はメーカー側の嫌らしい逆襲が始まる。それもまた、より高いハードルとなって立ちはだかってくる。
ひとつの障害を乗り越えると、また新たな、さらに困難な障害が目の前に立ちはだかる。最後には、もうランニングシューズ製造は諦めようかという、究極に追い込まれた状態となる。ひとつの逃げ道があるが、それはベストではない。
ラストの展開としては、ベストではない選択を選ぶのでは?と思われたが、そこでも新たなアイデアをだし一発逆転してしまう。600頁近い作品だが、飽きることなく一気に読めてしまう。山あり谷あり、少しも気を抜くことができない作品だ。
零細企業社長の情熱大陸的な要素があるから盛り上がるのだろう。
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