下町ロケット 池井戸潤


 2015.9.16      夢にあふれた町工場 【下町ロケット】

                     
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■ヒトコト感想

突然に取引先からの取引停止で業績が悪化した町工場の物語。序盤は、いつもの池井戸作品のように銀行と町工場のやりとりが続く。つぶれそうな町工場の経営者である佃は、銀行に融資をお願いする。このあたり、作者の作品らしい要素が詰まっている。

本作のポイントは町工場に特殊な技術があるということだ。そこから特許訴訟に始まり、新型バルブの特許を取得したことで巨大企業よりも強い立場となる。ロケット作りへの熱い思いや、仕事に対するスタンスなど、非常にワクワクしてくる。町工場という響きは、陳腐に感じてしまうが、技術力があればいかようにもなるという物語だ。夢にあふれラストは壮大な感動がおしよせてくる。

■ストーリー

研究者の道をあきらめ、家業の町工場・佃製作所を継いだ佃航平は、製品開発で業績を伸ばしていた。そんなある日、商売敵の大手メーカーから理不尽な特許侵害で訴えられる。圧倒的な形勢不利の中で取引先を失い、資金繰りに窮する佃製作所。

創業以来のピンチに、国産ロケットを開発する巨大企業・帝国重工が、佃製作所が有するある部品の特許技術に食指を伸ばしてきた。特許を売れば窮地を脱することができる。だが、その技術には、佃の夢が詰まっていた――。

■感想
売上100億規模の小さな町工場が倒産の危機に陥る。取引先からの突然の取引停止要求。さらにはライバル企業からの特許侵害の訴訟。窮地に立たされた経営者の佃は、様々な策を考えるが、挽回できない。人との繋がりや佃の胆力により迫りくる窮地から脱し、さらには巨額の和解金が手に入ることになる。

突如として数十億の金額が舞い込んでくるのは衝撃だろう。ただ、企業経営者からすると、それすらも町工場を何年も無条件に維持できるものではないらしい。このあたり、経営者としての苦労を感じずにはいられない。

前半は経営者の苦労と、都合の良い時だけすり寄ってくる銀行への怒りが描かれている。その後、特許と訴訟の話となり、訴訟を抱える中小企業の苦しみが描かれている。ここまでは作者らしい雰囲気だ。ただ、そこから特許の見直しを行い、しっかりと権利化することで、今度はその特許が元で様々な問題が発生する。

ロケット開発に携わる大企業からの協業の打診から始まり、最終的にはロケットのエンジン開発へと繋がる。単純に、経営者としての苦労だけでなく、遊びというか夢を追い求める部分がるところがすばらしい。

町工場経営は、とりあえず多額な和解金が入ったことで問題はない。今度は…。夢へと向かう経営者の姿勢はすばらしい。実際には本作のようにうまくはいかないのだろうが、現実的な答えばかりを示されるよりは夢があって良い。

最初は敵対していた人物たちが、佃たちの仕事へのスタンスに心打たれ協力し始める。ロケットを飛ばすまでの山あり谷ありもまたワクワクドキドキしてくる。半沢直樹的なすっきりとする逆転劇ではないが、夢を達成するために苦労し、その苦労が報われる瞬間は思わず涙がでてしまう。

非常に夢とロマンにあふれる良作だ。



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