何もかも憂鬱な夜に 


 2017.11.15      自殺した理由を示す手紙 【何もかも憂鬱な夜に】

                     
何もかも憂鬱な夜に (集英社文庫) [ 中村文則 ]
評価:3
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■ヒトコト感想
相変わらず作者の作品は、登場人物が心に闇を抱えている。本作では施設で育った刑務官「僕」が主人公だ。過去のトラウマと現在の状況がシンクロし、死刑囚の山井の死に気持ちが揺れ動く僕。学生時代のエピソードから、過去に僕の親友が自殺したとわかる。自殺した理由を記す手紙が強烈だ。山井や自殺した友には普通ではない何かを感じずにはいられない。

到底感情移入できるような人物ではないのだが、興味を惹かれてしまう。刑務官という職業独特の雰囲気も強烈だ。いつ自分が死刑になるかわからない者たちと常に近くにいることは、それだけで精神にこたえるのだろう。同じく刑務所を舞台にした「グリーン・マイル」とはまったく別の雰囲気の作品だ。

■ストーリー
施設で育った刑務官の「僕」は、夫婦を刺殺した二十歳の未決囚・山井を担当している。一週間後に迫る控訴期限が切れれば死刑が確定するが、山井はまだ語らない何かを隠している―。どこか自分に似た山井と接する中で、「僕」が抱える、自殺した友人の記憶、大切な恩師とのやりとり、自分の中の混沌が描き出される。芥川賞作家が重大犯罪と死刑制度、生と死、そして希望と真摯に向き合った長編小説。

■感想
施設で育った僕が成長し刑務官となる。何のために生きるのかや、なぜ自分は生きているのか、なんていう思春期の子供が悩むことをそのまま物語としている。施設で飛び降り自殺しようとしたことを施設長に止められる。思春期の悩みは、大人の歯止めにより解決されることがある。

本作を読んで、同じく思春期で悩んでいるような子供たちは、何か解決できるだろうか。正直いうと、思春期をとうにすぎた自分からしたら、この手の思春期の悩み系はありきたりな雰囲気と思えてしまう。

刑務官の僕は山井に何かを話しかける。その結果、山井は自殺してしまう。僕は山井に何を言ったのか。少年時代のエピソードに戻り、そこでは親友が手紙を残して自殺するというエピソードが語られている。親友の死の責任は誰にあるのか。

僕にあるのか。思春期らしい悩みが語られ、その後の手紙の場面では自殺した真相が語られている。まぁ、自殺の理由としては思春期にはありがちかもしれない。思春期に限らず大人になりきれていない大人でもある理由だ。

本作のすごいところは、ただひたすらに淡々と語られているところだ。ひねくれた見方をせず、純粋に受け止めることができる人は心に響くだろう。ある程度大人となり、世間の荒波を経験していると、すぐに斜め上の考え方をしてしまう。

本作においても、山井に語った言葉がより衝撃的であればまた印象も変わっただろう。山井の自殺には僕はほとんど関係はない。過去の親友の自殺についても関係はない。ただ、そう思うことができるかできないかは大きい。

人によって印象が大きく変わる作品だろう。



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