波の音が消えるまで 上 


 2017.8.14      バカラの泥沼にはまる 【波の音が消えるまで 上】

                     
波の音が消えるまで(上巻) [ 沢木耕太郎 ]
評価:3
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■ヒトコト感想
バカラを扱った作品。バカラと言えば森巣博の作品を思い出してしまう。元サーファーのカメラマン助手が、マカオの地でバカラにはまる。特徴的なのは、バカラを確率ではなく法則をみいだして勝とうとするところだ。森巣博がバカラは同じテーブルで賭けている人と人の運の対決だというスタンスであったが、本作では単純にカードの出目を予想しての勝負となる。

同じテーブルで賭けをしている人については、勝っている人物にのるかのらないかはあるが、基本的には関係ない。論理的に突き詰めていけばいくほど、泥沼にはまり込みそうなのがバカラだと感じた。航平の博打の仕方はいずれ崩壊するように思えて仕方がない。

■ストーリー
老人が遺した一冊のノート。たった一行だけ書かれた、「波の音が消えるまで」という言葉。1997年6月30日。香港返還の前日に偶然立ち寄ったマカオで、28歳の伊津航平は博打の熱に浮かされる。まるで「運命」に抗うかのように、偶然が支配するバカラに必然を見出そうともがく航平。

謎の老人との出会いが、彼をさらなる深みへと誘っていき…。緑の海のようなバカラ台には、人生の極北があった。生きることの最も純粋な形を求めて、その海に男は溺れる。

■感想
偶然立寄ったマカオでバカラにはまる航平。カメラマン助手のころから、相手をじっと見るということをひたすら繰り返す特技がある男。バカラは丁半博打と同じなので、基本は運なのだが、航平は法則を見つけ出そうとする。最初は数字の勢いを取り入れ、勢いのある方へと賭け続ける。

単純に50%の確率なはずだが、負け続けたり勝ち続けたりする。胴元に数パーセント取られることを考えると、必ず負けるのがバカラのはずなのだが…。バカラにはまる人の心境がまさに描かれている作品だ。

バカラに法則性を求め、確実に勝つ手段を探そうとする航平。カジノでは中国人のフリをする日本人の老人と知り合いとなり、バカラの鉄則を学ぶ。それでも勝ったり負けたりを繰り返す航平。合間には、女性との出会いがあり、トラブルもある。

それでも基本はバカラで勝つか負けるかの物語だ。連続して同じ側が勝つことをツラ目といい、確率どおり交互になることをモドリ目という。モドリ目で勝つのは困難だが、ツラ目であればひたすら同じ目に賭け続けて大きく勝つということらしい。

普通に考えて片側だけがひたすら勝ち続けていたら、次は別の側が勝つのではないかと考えるのが普通だが…。そんなことを考えながら、負けが込むと負けを取り戻すために大きく賭けはじめ、最終的には破産してしまうのが通常だろう。

バカラに熱中してしまうのはよくわかる。単純だからこそ、そこに法則性を見つけ出し大勝したいと思うのだろう。歴史は繰り返すように、バカラの出目も大きな意味では繰り返すので、ひたすら法則性を記録し、次に出る目を予測するというとんでもないことまで考えている。

このバカラ地獄から脱出するのか、下巻ではどのような流れになるのか想像できない。



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