波の音が消えるまで 下 


 2017.8.30      麻薬以上の中毒性があるバカラ 【波の音が消えるまで 下】

                     
波の音が消えるまで(下巻) [ 沢木耕太郎 ]
評価:3.5
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■ヒトコト感想
上巻でバカラの魅力にはまりこんだ航平。下巻ではよりその魅力に取りつかれ、バカラの必勝法を探そうと必死になる。この必勝法というのが、単純に金を増やすということではなく。ひとつのシリーズを最初から最後までやりきり、最終的に勝つということだ。勝っているから止めるということができない。やればやるほど負ける確率が高くなるのがバカラだ。

もはやバカラにとりつかれた航平はバカラをするためだけに日本に帰り金を稼ぐ。そして、またすぐマカオでバカラにはまる。航平が人生で大事なものを次々と捨てていきながら、バカラに心血を注ぐ。その結果、必勝法を見つけだせたのか、それとも崩壊していったのか。なんだかバカラの恐怖ばかりが印象に残っている。

■ストーリー
バカラは地獄です。あなたは破滅します。でも、私には、それが羨ましい。美しい中国人娼婦が抱えた哀しい秘密、老人が背負い続けてきた罪と罰、航平の父の死の意外な真相。明かされていく過去を振り切るように、航平は己自身を賭けて最後の大勝負に挑む。そして―。生と死の極限の歩みの果てに辿り着いた場所で、男はその意味を知る。遺された言葉の、ほんとうの意味を。

■感想
バカラの地獄にはまりこむ航平の物語だ。上巻ではバカラの魅力と、それにとりつかれた男が描かれていた。それが、下巻になると、すべてを捨ててでもバカラにのめり込むという、異常な状況になっている。金がなくなれば、日本に帰りバカラ資金を溜めるためだけに働く。

カメラの仕事も、いずれ辞めるとわかっているからこそ楽しめる。日々の生活費を削りながらバカラ資金を貯め、いち早くマカオに飛び立ちたい。この段階で航平はバラカ地獄にはまり込んでいる。

再度のマカオでは、勝ったり負けたりであっという間に資金が底をつく。となると、カジノの金をくすねはじめたり、あげくは自分のパスポートを売り払ったりもする。そんなことをして得た金をまたあっさりとバカラですってしまう。

航平が典型的なバクチ中毒風ではなく、理路騒然として精神状態も落ち着いた真っ当な人間として描かれているだけに、なおさらバカラの怖さが際立つ。航平のような人物がバカラにはまりこむ。無一文になりるが、八方ふさがりの状態から手助けしてくれた人さえ無にしてしまう。

衝撃的なのはラストの展開だ。日本へ帰る唯一の手段を金に換え、50ドルからバカラを始め、50万ドルにまで増やす。そこまでは、まさに覚醒状態で全ての目が読める状態となっている。ある意味、これで終わりなのだろうと想像していた。

航平がどこかでバカラ地獄から抜け出すのではないか。ラストでは日本に帰りカメラの仕事を再開しているのではないかと思っていたのだが…。バカラはすべてを狂わすというのがよくわかる作品だ。一瞬ですべてを無にしてしまう可能性のある恐ろしい博打だ。

バカラはまさに麻薬以上の中毒性があるのだろう。



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