御子柴くんの甘味と捜査 若竹七海


 2015.8.5      長野ローカルな名物スイーツ 【御子柴くんの甘味と捜査】

                     
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■ヒトコト感想

葉村晶シリーズの名作「プレゼント」に登場した御子柴くんが主人公の本作。長野県警から警視庁へ異動になった御子柴。そこで上司からスイーツを要求される。ミステリー短編集だが、スイーツありきというのが面白い。しょっぱなのくるみ餅は、自分も良く知っている名物なのでイメージしやすい。それにちなんだ事件かというと…、そうでもない。

正直、スイーツとミステリーにはなんの繋がりもない。作品の特徴付けとしてのスイーツだけに、なくても別に問題ないかもしれない。「プレゼント」の雰囲気を想定していると、かなりライトでほのぼのとした作品と感じることだろう。御子柴くんのキャラクターが少しお笑いが入っているので、余計そう感じるのかもしれない。

■ストーリー

長野県警から警視庁捜査共助課へ出向した御子柴刑事。甘党の上司や同僚からなにかしらスイーツを要求されるが、日々起こる事件は、ビターなものばかり。上田市の山中で不審死体が発見されると身元を探り(「哀愁のくるみ餅事件」)、軽井沢の教会で逃亡犯を待ち受ける(「不審なプリン事件」)。『プレゼント』に登場した御子柴くんが主役の、文庫オリジナル短篇集。

■感想
ちょっと変わったスイーツということで、そのスイーツに対して興味を持たせることがまずは重要なのだろう。「哀愁のくるみ餅事件」で登場する、長野県上田市のくるみ餅は、食べたことがあるので、なんだか少しだけ懐かしくなった。山中での不審な死体を探る物語なのだが…。

長野の上司と東京の上司に板挟みになるような形の御子柴くんの悲しさのようなものを感じずにはいられない。ごちゃごちゃと事件を解決しようとするのだが、最後は上司からの電話であざやかな終わりとなりパターン化されているのは良い。

その他の短編はすべて長野県の名物スイーツがタイトルに登場する。正直、くるみ餅以外は聞いたこともない。そのため、そのスイーツに対する描写に特別な印象をいだくことができない。なんとなくだが味噌ピッツァは、あまりおいしそうではないなぁ、と思ってしまった。

小林警部補が登場し、さらには、ハードボイルド作家の角田先生が登場するなど、作者の作品を読み続けている人にはうれしいオマケもある。基本は「プレゼント」を読んでいることが前提なのだが、あまりに作品のテイストが違うので、困惑するかもしれない。

さわやかなキャラクターと、そこまで複雑ではないトリック。となると、キャラクターの魅力やその他の要素で補うしかないのだろう。本作は、御子柴くんのキャラと、ご当地スイーツという二つの要素で、読者を惹きつけようとしている。

読み終わっても、事件についてそこまで印象に残らないのは、事件のインパクトが少ないからだろう。このライトな雰囲気は、深夜の30分ドラマにぴったりかもしれない。キャラのユーモアさをデフォルメすれば、形にはなりそうだ。

作者の葉村晶シリーズを読んでいることが前提だろう。



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