魔物 下 


 2017.7.24      最悪の人物にとりつくカシアン 【魔物 下】

                     
魔物(下) [ 大沢在昌 ]
評価:3
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■ヒトコト感想
カシアンがとりついた高森はヤクザの幹部を殺そうとする。カシアンの存在が科学的に解明されるはずもなく、オカルト現象として続いていく。カシアンを追いかける大塚と、幹部を殺されたヤクザ組織が協力して新たにカシアンがとりついた人物を追いかける。このあたりが物語のピークだ。

過去に大塚が出会った最悪の人物・飯田。偶然にもカシアンがとりついたのが飯田であり、大塚と運命と思われるような対決が待っている。カシアンの存在を信じない警察だが、ヤクザ組織があっさりとカシアンを信じるのは面白い。ありえない状況が続くと、残った選択肢はひとつしかないということなのだろう。

■ストーリー
イコンに描かれていたのは聖人“カシアン”。だが、カシアンは聖人に列せられながらも、心に強い憎しみを秘める人間に取り憑き、その者の欲望を満たす力を与える魔物だと信じられているという。その伝説ゆえ、長きにわたって封じられていたのだ。

超人的な逃走を続けるロシア人との奇妙な符合に不安を覚えながら、ついに犯人を追い詰める大塚だが、同僚を殺され、自らも重傷を負ってしまう。犯人は一体、何者なのか?大塚は、命をかけて真実を突き止める決意を固め、心の奥底に澱んでいた過去の傷と向き合いながら、行方を追う。向かった先は東京、憎しみ渦巻く魔物の理想郷へ―。

■感想
ヤクザの高森にとりついたカシアン。高森の怒りを感じとりヤクザ幹部の殺害へ向かう。下巻では大塚が各所の関係者たちにカシアンの正体を伝えるのだが、当然伝わるわけもない。オカルト現象をすんなり受け入れる警察組織ではない。

ただ、半信半疑ながらも、状況証拠からカシアンの存在を認めなければならなくなっている。最初はまったく相手にしなかった者が、高森の異常な状況を目の当たりにすると、信じざるお得ない。カシアンを信じる者が次第に増えていくのは、状況としては面白い。

カシアンにとりつかれた高森が魔物の力でヤクザ幹部を殺害する。そして、大塚と因縁のある飯田にとりつく。ここから上巻で描かれていた大塚の青春時代の出来事に繋がることになる。人間的に信じられないような悪意をもつ存在である飯田。

ゲスの極みであり、そんな飯田にとりついたカシアンは大塚との対決を望む。カシアンがより強い悪意をもつ者にとりつきたいとして大塚を選ぶ。カシアンの力を手にいれた飯田と対決するにあたり、飯田を殺さないようにという配慮が必要な対決となっている。

過去の経験が大塚の心に激しい憎悪を植え付ける。それに気づいたカシアンが、次なるとりつくターゲットとして大塚を選ぶ。ここからは飯田が死んだ瞬間に大塚にとりつき、その瞬間に大塚が自殺すればカシアンはとりつく先がなくなり消滅するという流れらしい。

かなりの大博打に大塚は挑戦するのだが…。ラストの流れは予想外のハッピーエンドとなる。カシアンの症状を薬物中毒状態と表現するのが最も納得できる流れだが、まさに魔物として扱い、そのまま結末まで突っ走る物語だ。

カシアンにとりつかれた状態は、強烈なインパクトがある。



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