マインド・クァンチャ 森博嗣


 2015.9.8      究極の冷気に満ちた対決 【マインド・クァンチャ】

                     
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■ヒトコト感想

ゼンの物語として前作で剣の実力はある程度極まったという描写があった。最強のヒメジを倒し、剣の道を究めたと思われたゼンに突如として襲い掛かる集団。そこで絶対的な力の前に倒れ、記憶を無くしてしまうゼン。今回は天下人の指南役という、これ以上ないほどの強者と闘うことになる。

負けて記憶を無くすゼンがそこから悟りを開くようにまた強さを一段階上げてくる。物語としては、最強の敵を倒し、そののち母親と出会い、ゼン自身が天下人となるという急転直下の展開となる。闘いに明け暮れた日々から、突如として絶対的な権力を持つ天下人となるゼン。戸惑いと苦しみから解き放たれるのかは次回へ持ち越しとなる。

■ストーリー

突然の敵襲、窮地に立たされたゼン。絶対的な力を前に己の最期すら覚悟しながらも、その強さ、美しさに胸が震える……。

■感想
ゼンの成長物語としては、本作はある程度終わりが見えてきた証拠なのだろう。最強の敵と戦い、負けて、いちから剣というものを考え直す。ゼンが記憶を一時的に失うことにより、すべてを真っ白な気分で受け入れることができる。

ただ、ゼンは元から理屈っぽく、なんでもないことに疑問を持つキャラクターだったので、記憶を無くしたとしても雰囲気はかわらない。相変わらずの朴念仁っぷりと、子供のように純粋な考え方をするゼン。仙人のような老人と出会うことで剣のレベルが一段階アップすることになる。

究極の強者同士の戦いは、やはり最初の一振りで決着がつく。天下人の指南役でさえも、紙一重のところで勝ちきるゼン。もはやゼンに剣で立ち向かう相手は存在しないのでは?と思われた段階で、ゼンのまわりで変化が訪れる。

ゼンが天下人の血を引いており、ゼン自身が天下人となってしまう。至れりつくせりの中で、周りを困らせないため流れにまかせるゼン。このあたり、ゼンの素直な性格から、すべてを受け入れ天下人としての生活に困惑しながらなじんでしまうのが面白い。

剣の稽古すらままならない生活。今まで自由気ままに生活していたゼンからすると、しばられる生活は苦痛だが、嫌がることが周りの迷惑になると悟ったゼンはすべてを流れるまかせるようになる。強烈なインパクトはなく、ゼンが今後どうなっていくのかまったく予想がつかない。

天下人の立場から抜け出すことができるのか、それとも…。もはや戦いでゼンの相手となる者は存在しない。となると、今後は緊迫感あふれる対決シーンは描かれないということだろうか。

一瞬で決まる対決シーンは、究極の冷気に満ちているようだ。



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