暗闇・キッス・それだけで 森博嗣


 2015.4.10      ハーレム状態の主人公 【暗闇・キッス・それだけで】

                     
森博嗣おすすめランキング


■ヒトコト感想

探偵兼ライターの頸城がライターの仕事として向かった先は、天才IT企業家ウィリアム・ベックだった。明らかにマイクロソフトのビルゲイツをイメージしたキャラクターであるウィリアム。日本の別荘地で殺人事件が起こる。偶然そこに居合わせた頸城が事件を調査するのだが…。オーソドックスなミステリーだが、作者の他作品と同様に、キャラクターが非常に冷めている

頸城は様々な女性との交流があるのだが、そこに男としての下品な欲求はなく、非常に無機質だ。恋愛絡みの何かがあるわけではない。ウィリアムの資産家としての生活や考え方と、別荘地で働く人々の中から条件を割り出し、消去法で犯人を捜し出そうとする。タイトルの意味はラストのあたりでなんとなく理解できる程度だ。

■ストーリー

大学在籍中にコンピュータのインタプリタを作製、休学してソフトウェア会社を創 業、1980年代にコンピュータ業界で不動の地位を築いた、IT史上の伝説的存在ウィ リアム・ベック。会長職を譲り、第一線から退いたウィリアムは現在、財団による 慈善事業に専念している。探偵兼ライターの頸城悦夫は、葉山書房の編集者兼女優 の水谷優衣から、ウィリアムの自伝を書く仕事を依頼され、日本の避暑地にある彼 の豪華な別荘に一週間、滞在することになった。

そこにはウィリアムだけでなく、 その家族や知人、従業員などが滞在していた。ところが、頸城が別荘に着いた後、思いもかけない事件が発生する。警察による 捜査が始まるが、なかなか手がかりをつかむことができない。そんな中、さらなる 悲劇が……。取材のために訪れた頸城は、ウィリアムの自伝執筆の傍ら、この不可 思議な殺人事件にも関わることになる。果たして、事件は解決できるのか。

■感想
ゾラ・一撃・さようなら」の続編にあたる本作。キャラクターは引き継いではいるが、雰囲気はまるっきり違う。頸城が女性に囲まれており、多少モテるような描写はあるのだが、それだけだ。ライターとしての仕事も、それほど熱心というわけではなく、編集者から尻を叩かれてしょうがなく書いているといった感じだ。

ライターとしての仕事や探偵としての調査も、どこかしょうがないからやっているという雰囲気はある。前作では、多少ハードボイルド的な雰囲気が感じられたが、本作では一切それもなくなっている。方針転換なのだろうか。

ビルゲイツをほうふつとさせるキャラクターのウィリアム。セレブならではのリッチな生活が描かれている。別荘を持ち、お手伝いさんがいるような生活。ある意味、限られた人物だけがその別荘地帯に存在する状態なので、ミステリーとしての準備は整っている。

あとは、どのように不可解な殺人が行われたかということだけだが…。本作の事件自体特別な印象はない。ある人物が殺されはしたが、凶器の銃が見つからないのと、動機が不明ということ。その後に起こる殺人についても同じだ。密室などのわかりやすい謎はない。

複数の女性が登場し、頸城は選び放題の状態だが、最終的にひとりに絞ることになる。そして、タイトルに繋がるのだが…。前作から独特のリズムあるタイトルが特徴なのだが、内容とどれだけリンクしているかというと、本作は微妙かもしれない。

作者らしいといえばらしいのだが、作者の作品に慣れていない人ならば、かなり辛いかもしれない。作者独特の言い回しと、無感情と思われるようなキャラクターたち。この冷たい感じが良いという人もだろうし、作品として、このドライさが良い場合もある。

前作と随分と雰囲気が違うというのが一番の印象だ。



おしらせ

感想は下記メールアドレスへ
(*を@に変換)
pakusaou*yahoo.co.jp