ゾラ・一撃・さようなら 森博嗣


2009.4.22  ハードボイルドミステリー? 【ゾラ・一撃・さようなら】

                     
■ヒトコト感想
作者の作品はある程度耐性ができている。そのため、よっぽど変なもの以外は驚くことがない。本作もまぁ言ってみればオーソドックスなミステリーなのかもしれない。しかし、肝心のトリックはというと、とってつけたようにありきたりなものだ。流れからして、もしかしたら恋愛を仄めかしたかったのかもしれない。しかし、言うほど恋愛というような印象はなく、いつものように変わった名前の登場人物たちが動き回るというくらいだろうか。そして、主人公はかなり強烈に理屈っぽく、自分の理屈っぽさをまったく理解していない。ある意味作者らしい作品といえるだろう。なので、目新しくもなければ衝撃的な印象もない。それはつまり安定しているとも言い換えることができる。

■ストーリー

自由気侭に生きる探偵・頚城悦夫のもとを訪れた謎に満ちた美女―。彼女の依頼は、引退した要人から秘宝“天使の演習”を取り戻してほしい、というものだった。だが、その男は伝説の殺し屋・ゾラに狙われている!頚城は彼に接近していくが…。

■感想
殺し屋、探偵、そして美女。もしかしたらハードボイルド小説かと思わせるが、実際にはいつもとほとんど変わらない。探偵役である頚城。まずその名前自体がありえない。こんな名前が日本に存在しているのだろうか。その他の登場人物たちにしてもそうだ。名前からくるイメージというのは大事だと思う。それなのに、作者はわりと変わった名前を使いたがる。最初に登場人物紹介があるのだが、これがなければ、まったく名前になじめず、それが障害となって物語りに入り込むことができないだろう。性別以外は年齢や容姿などもほとんど頭の中に思い浮かべることができなかった。もはやこれはしょうがないことなのだろうか。

物語は典型的なミステリーとなる。ゾラという正体不明の殺し屋が気になるところだが、特別ではない。探偵としての特殊能力や何か特別な魅力があるのかと思いきや、何もない。なんだろう。特徴といえば、金持ちなことと、妙に女性にもてるというところだろうか。キャラクターとしての魅力をそもそも感じることができなかったので、集中できなかったというのもある。作者独特の文体によって、なんだか切れ味するどくなってはいるが、それだけだ。いつもの理屈めいた探偵の会話を楽しみながら、事件の推移をただ見守るだけ。登場人物たちに感情移入することは、おそらくできないだろう。

一撃のもとに狙撃するゾラ。作者が何を一番書きたかったのかちょっと理解に苦しむ。これは当然シリーズ化されるはずもなく、単独作品だとしても、何を売りにしているのかちょっと疑問だ。作者といえば、どうしてもシリーズモノを思い浮かべてしまう。初期のころのような特殊なトリックや、興味を引かれるキャラクター描写などは存在しない。あるのは、いつもどおり風変わりな名前と、妙に世間ずれした登場人物たちだ。しかし、作者の作品を読んでいると毎回思うことがある。それは、登場人物たちが俗世間的な悩みとは切り離された世界にいるということだ。それがリアルさを感じさせない原因なのだろうか。

作者のファンならば読んでもいいかもしれない。



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