古書店アゼリアの死体 若竹七海


 2015.3.30      作者得意のコージーミステリー 【古書店アゼリアの死体】

                     
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■ヒトコト感想

ヴィラマグノリアの殺人」から続く、葉崎市のコージー・ミステリー。前作同様、登場人物は多い。それぞれに特徴があり、キャラクターと関連性を把握するのは一苦労かもしれない。それでも、人物紹介の中でなんとなくだが、キャラの位置づけが把握できる。基本的には相沢真琴が主人公なのだが、真琴が遭遇する身元不明の死体から物語はスタートする。

警察の動きは微妙で、これといった名探偵がいるわけでもない。が、いつの間にか事件の謎は解かれている。名門の前田家にまつわる隠された秘密。古本屋アゼリアにまつわる秘密など、複雑に絡みあう状況が良く整理されている。作中にはロマンス小説が大好きなキャラが重要人物として登場するため、ロマンス小説好きも楽しめるだろう。

■ストーリー

勤め先は倒産、泊まったホテルは火事、怪しげな新興宗教には追いかけられ…。不幸のどん底にいた相沢真琴は、葉崎市の海岸で溺死体に出合ってしまう。運良く古書店アゼリアの店番にありついた真琴だが、そこにも新たな死体が!事件の陰には、葉崎市の名門・前田家にまつわる秘密があった…。笑いと驚きいっぱいのコージー・ミステリの大傑作。

■感想
基本は真琴が出会ってしまった身元不明の死体を探る物語だ。前作の「ヴィラマグノリア」がそうであったように、身元不明というのが大事なのだろう。警察の捜査よりも、地元住民たちによる住民同士の聞き取りにより、新たな真実が浮かび上がる。

ラジオのDJやラジオのディレクター。古本屋の店主に、名門・前田家の面々。身元不明の死体は、前田家の長男なのか、それとも別人なのか…。結局のところ前田家の資産が誰のものになるのかがポイントだ。

資産家の前田紅子。金はうなるほどあり、趣味で古書店アゼリアを経営する。この紅子がロマンス小説好きのため、作中には様々なロマンス小説が登場する。正直、自分はこのあたりの知識がないので、名作と言われたロマンス小説も読んだことがない。

作中のロマンス小説を引用し、物語の鍵となる部分は少しついていけなかった。それでも、根本は住人たちによる素人探偵ゴッコが面白い。凄惨な殺人事件や、不可解なミステリーではなく、日常の謎の延長線上にある事件だ。

身元不明の死体の喪主である前田満知子。FMラジオ局の社長でもある満知子が殺されてから、事態は大きく動き出す。誰が何のために?という複雑な状況を、素人たちが解き明かす。ひとりの名探偵が信じられない推理を働かすのではなく、みなで情報を出し合い、それぞれの推理を集めて最終的に、少し冴えた考えをもつ者が犯人を見つけ出す。

素人たちの協力と、犯人を見つけ出すまでの論理展開がシンプルなのが良い。よくある難解ミステリーのように、「それはないだろう」というインチキ感はない。

素人たちが大活動する葉崎シリーズの真髄がここにある。



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