騎士団長殺し 第1部 


 2017.12.17      絵画の中の人物が動き出す 【騎士団長殺し 第1部】

                     
騎士団長殺し 第1部 顕れるイデア編 [ 村上 春樹 ]
評価:3.5
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■ヒトコト感想
妻に別れを切り出された私が山奥で静かな生活をする。そこで見つけた騎士団長殺しという絵画。近所に住む免色という男。自画像を書くことを仕事とする私に、自画像を依頼する免色。いつもの村上春樹風な流れであることは間違いない。キャラクター的な魅力は主人公よりも免色にある。私の周りで起こる奇妙な出来事。

免色のミステリアスさが、物語全体を不思議なものにしている。悪意や憎悪などいっさい存在しない。規則正しく生活し、不健康とは無縁の世界。現実的ではない。絵画教室の生徒の主婦と不倫をしているが、そこに背徳感はない。この非現実的な感覚が作者の魅力なのだろう。まだ上巻の段階では、謎を小出しにし、下巻で解明されるとは思えないが、謎により強い引きの強さを生んでいる。

■ストーリー
その年の五月から翌年の初めにかけて、私は狭い谷間の入り口近くの、山の上に住んでいた。夏には谷の奥の方でひっきりなしに雨が降ったが、谷の外側はだいたい晴れていた……それは孤独で静謐な日々であるはずだった。騎士団長が顕(あらわ)れるまでは。

■感想
肖像画を描くことを生業とする男。山奥でひっそりと暮らすが、そこに免色という男がやってくる。まず主人公である私が、突然妻から別れを切り出されることから物語はスタートする。傷心の私が、免色と出会い変わっていく。免色の存在が不気味だ。

夜中に謎の鈴の音が聞こえ、それを探ると即身仏を作るための巨大な縦穴が見つかる。そこに入り込む免色。そこにどのような意味があるのか。私が見つけた屋根裏にひっそりと存在している「騎士団長殺し」の絵。何か意味がありそうでない。恐らくすべてが解明されることはないのだろう。

作者の作品の特徴として、謎が登場しても、その謎に対してしっかりと決着がつけられるとは限らない。免色の子供だと思われる秋川まりえの存在。そして、私が住む前にそこで日本画を描いていた雨田。すべての人物に何かしら不思議な要素がある。

変な悪意や恨みなどとは無縁で、常に平常に生活しようとする私。物語として山や谷があるわけではない。私の落ち着いた生活の中で、私が何に気づいて、どのような変化を引き起こすのか。特殊な状況であることは間違いないのだが、不思議な雰囲気がある。

第2部で免色の謎や、騎士団長殺しから抜け出した小さな60センチほどの騎士団長の存在など、恐らく明らかにはならないだろう。作者のインタビューの「みみずくは黄昏に飛び立つ」でも、謎についてはっきりとオチはつけないと明言している。

この不思議な雰囲気を楽しむのが正しい楽しみ方なのだろう。私が秋川まりえの肖像画を描く。免色が何かしら怪しい動きをする。騎士団長も免色については何か含みをもたせている。この流れの中で、どのような結末となるのかは気になるところだ。

不思議な現象のオチを期待してはならない。



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