鬼談 京極夏彦


 2016.2.16      人の想像力を刺激する恐ろしさ 【鬼談】

                     
鬼談 [ 京極夏彦 ]
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■ヒトコト感想
鬼が頭についたタイトルの短編集。鬼がついているからといって、鬼がでてくるわけではない。「幽談」シリーズのひとつとして、鬼気迫る何かを感じさせる短編集だ。直接的な恐怖はない。鬼がでてきて、何か直接的な悪さをするわけではない。人の心に住む鬼を描くのか、鬼がとりつき人を狂わせるのか。最も恐ろしいのは「鬼縁」だ。

江戸時代と現代を交互に描いた作品だが、まるで鬼にとりつかれたような人の所行には、読んでいて鳥肌が立ってしまった。「鬼景」は、鬼は直接関係ないのだが、人の目に見えないものは見てはいけないものだという言葉がなんとも深い印象を残している。それ以外にも、冒頭の「鬼交」は、最初は意味がわからなかったが、隠微な雰囲気とねっとりとした感触が妙に印象に残っている。

■ストーリー

愛、絆、情―すなわち執着は、人を鬼と成す。人は人を慈しみ、嫉妬し、畏れをいだく。その思いが強ければ強いほどに。“生と死”“人と鬼”の狭間を描く、京極小説の神髄。「」談シリーズ第四弾となる、鬼気迫る短篇集。

■感想
「鬼縁」は強烈な怖さがある。江戸時代と現代が交互に描かれており、江戸時代では生まれた時から右腕がない男が主人公となる。現代では生まれたばかりの弟を可愛いと感じる兄目線の物語だ。江戸時代、男が生まれてすぐに右手を切られたのには理由があった。が、その理由を知った後に…。

江戸時代の物語は剣客の物語としては歪だが納得できる流れだ。それが現代の物語と交互に描かれることにより、現代の異常さが際立って表現されている。生まれてすぐの弟の右腕を切り落とす父親。そこにどのような意味があったのか…。

「鬼景」は、今まで気づかなかった場所に、突如として切り株が四つあることに気づいた。今まで見覚えのない風景が、なぜ突如として存在しているのか。非常に恐ろしい。日常にありそうで恐ろしい。今まで見覚えのない古い家が突然現れる。ただ、家族に聞いてもそんなものは「ない」としか言わない。

昔からあったのに、自分が気づかなかっただけなのか、それとも…。ふとした時に、「ここにこんなのあった?」と思うことはある。それが恐ろしさを伴うと、周りの反応如何では、強烈な恐怖感を誘発することは間違いない。

「鬼気」は、メインの恐ろしさよりも両親の関係が恐ろしくなる。顔を半分隠した女がついてくる。そして、何ヶ月か前に別れた母親のことを思い出す。物忘れが激しくなり父親をなじりだした母親。この母親と父親の関係に強烈な恐ろしさがある。

認知症のように、ついさっきのことを忘れてしまうが、それを指摘すると怒る母親。さらには、認知症がゆえにこちらの言ったことすらも忘れ怒り狂う。となると、どうしようもない地獄のような日々が続くのだが…。ラストのオチより、そこに至るまでの家族の関係が恐ろしすぎる。

それぞれ鬼というタイトルがついてはいるが、鬼的な恐ろしさというよりも、人の想像力を刺激する恐ろしさがある。



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