八月は冷たい城 


 2017.7.5      親の死に目に会えない子供たち 【八月は冷たい城】

                     
八月は冷たい城 [ 恩田 陸 ]
評価:2.5
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■ヒトコト感想
前作「七月に流れる花」で夏流城での林間学校の意義が判明し、少女たちの強烈な夏の経験が描かれていた。本作では少年たちの林間学校での出来事が描かれている。緑色感冒に感染し、死が間近に迫った親の子供たちが集められる林間学校。強烈な感染力をもつため親の死に目に会えない子供たち。そこで使者の役割をする「みどりおとこ」。

前作ではその正体は単純に緑色感冒に感染し生き残った人物としか描かれていなかったが、本作ではその真実が明らかとなる。ミステリー的な要素は前作よりも弱い。ある意味大きなネタはバレた状態で、新たにみどりおとこをミステリーの題材としている。前作から続きで読むことが必須の作品だ。

■ストーリー
夏流城での林間学校に初めて参加する光彦。毎年子どもたちが城に行かされる理由を知ってはいたが、「大人は真実を隠しているのではないか」という疑惑を拭えずにいた。ともに城を訪れたのは、二年ぶりに再会した幼馴染の卓也、大柄でおっとりと話す耕介、唯一、かつて城を訪れたことがある勝ち気な幸正だ。到着した彼らを迎えたのは、カウンターに並んだ、首から折られた四つのひまわりの花だった。

少年たちの人数と同じ数―不穏な空気が漂うなか、三回鐘が鳴るのを聞きお地蔵様のもとへ向かった光彦は、茂みの奥に嫌を持って立つ誰かの影を目撃する。閉ざされた城で、互いに疑心暗鬼をつのらせる卑劣な事件が続き…?彼らは夏の城から無事に帰還できるのか。短くせつない「夏」が終わる。

■感想
前作は少女たちの物語であったが、本作では同時期の少年たちの物語となっている。緑色感冒に感染した親をもつ子供たち。親の死に目に会えないことは確定した子供たちなので、親の死を待つだけの林間学校が楽しいはずはない。

前作の流れを引き継いでいるので、本作だけ単体で読んでもあまり意味がない。というか、面白さが伝わらないだろう。緑色感冒の恐怖と、唯一の生き残りであるみどりおとこの存在。夏の人という名前でも呼ばれている奇妙な存在だ。

前作同様、何か秘密があるが、その秘密が何なのかわからないまま物語はすすんでいく。みどりおとこが少年たちを殺そうとするのか?それとも誰か別の存在が、少年たちを殺そうと罠を仕掛けているのか?緑色感冒の謎はすでに前作で判明しているので、本作では少年たちの他に別の人物が夏流城に入り込んでいるのでは?というミステリアスな流れがある。

秘かに活動する謎の殺人者の存在とは?そして、みどりおとこが人間の体を咥えて池から出てくるという衝撃的な展開となる。

本作ではみどりおとこの新たな秘密が明らかとなる。緑色感冒の患者が隔離されて施設でひとりだけ存在するみどりおとこ。なぜたったひとりなのかの答えがここにある。緑色感冒の患者が世界的に減少していく中で、みどりおとこの存在はどうなっていくのか。

少年たちを狙うミステリアスな罠については、割とありきたりなオチとなっている。ミステリーの要素は弱いのだが、みどりおとこの真実は衝撃的かもしれない。

必ず「七月に流れる花」を読んでから読むべき作品だ。間違っても順番を逆に読んではならない。



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