七月に流れる花 


 2017.7.3      林間学校でのミステリアスな流れ 【七月に流れる花】

                     
七月に流れる花 [ 恩田 陸 ]
評価:3
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■ヒトコト感想
6月という中途半端な時期に、夏流に転校してきたミチルの物語だ。両親が離婚し母親と二人暮らしのミチル。全身が緑色の奇妙な「みどりおとこ」を目撃し、その後夏流城での林間学校に招待される。何か秘密があるが、その秘密が何かを最後まで明かさない。ミチル以外はすべて了解済みの林間学校。みどりおとこの奇妙さと、下界から隔離された城での林間学校。

友達の姿が消え、謎の鐘が鳴り響く。奇妙な状況のオチはすばらしい。きっちりと伏線が回収されており、ミステリアスな引きの強さと結末の鮮やかさも良い。周りがミチルに真実を話さない理由づけもしっかりしているので、不自然さはない。少女たちのひと夏の林間学校でのミステリアス感がすばらしい。

■ストーリー
坂道と石段と石垣が多い町、夏流に転校してきたミチル。六月という半端な時期の転校生なので、友達もできないまま夏休みを過ごす羽目になりそうだ。終業式の日、彼女は大きな鏡の中に、緑色をした不気味な「みどりおとこ」の影を見つける。思わず逃げ出したミチルだが、手元には、呼ばれた子どもは必ず行かなければならない、夏の城―夏流城での林間学校への招待状が残されていた。

ミチルは五人の少女とともに、濃い緑色のツタで覆われた古城で共同生活を開始する。城には三つの不思議なルールがあった。鐘が一度鳴ったら、食堂に集合すること。三度鳴ったら、お地蔵様にお参りすること。水路に花が流れたら色と数を報告すること。少女はなぜ城に招かれたのか。長く奇妙な「夏」が始まる。

■感想
転校生のミチルは全身緑の奇妙な「みどりおとこ」と出会う。まず夏流という町全体が不思議な雰囲気がある。ミチル以外の誰もが常識的に知っている世界。ミチルだけが知らない常識がこの町には存在する。ミチルだけが重大な何かを知らされずに日々を過ごしている。

表面上は仲の良い友達といった感じなのだが、どこか違和感を覚えるミチル。極め付けはみどりおとこの存在だろう。ミチルだけが驚くが、周りは驚かない。この町にどんな秘密があるのか、否が応でも先を知りたい気持ちは高まっていく。

ミチルの両親は離婚しており、母親と生活しているのもポイントだ。夏の日にミチルは夏流城の林間学校に招待される。ここで母親の悲しみや、なんの説明がない状態でミチルの周りが動きだす。林間学校で何かがあるのは間違いない。

ただ、その何かがわからないミチルの不安感は、読書も共感できる。林間学校で巻き起こる様々な出来事。川から流れてくる花の色と数を報告するだとか、鐘が3つ鳴り響くと周りの雰囲気が変わるなど、強烈にミステリアスな伏線が続いていく。

ラストではすべての伏線がしっかりと回収されている。みどりおとこの正体や、城で開かれる林間学校の意味まで。ミチルだけが何も知らされない理由もはっきりする。奇妙な町で巻き起こる奇妙な出来事。友達がいなくなり、悲しみに満ちた雰囲気には理由がある。

林間学校に呼ばれることには大きな理由があり、誰もが呼ばれたくない悲しいイベントとなっている。作者はこの手の不思議な出来事を描くのがうまい。それでいて、結末もサナトリウムに隔離されたハンセン病患者的な雰囲気がある。この不可思議さが良い。

本作が少女編ならば、次回作は男子編だろう。



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