246 沢木耕太郎


 2015.11.9      色あせない作者のスタンス 【246】

                     
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■ヒトコト感想

深夜特急」が本になる時期の日記をエッセイとしてまとめた本作。かなり昔の話なので、今読むと違和感がある。どの辺に違和感を覚えるかというと、まず登場してくる人物たちだ。いまは亡き人や、かなり高齢な人物が普通に登場してくる。恐らく30年以上前のことなので、そうなるのも当然だろう。人物だけでなく、出来事も相当古い。ただ、作者のスタンスというのは時代を経ても色あせるものではない。

日々の生活では、人と頻繁に会うことはあるが、金遣いが荒いわけでもなく、セレブな遊びをするわけでもない。売れっ子作家とは違う、ノンフィクションライターであり、普通の父親である作者の日常が読めるというのは、心地良い感じがした。

■ストーリー

もしかしたら、『深夜特急』はかなりいい本になるかもしれない…。のちの名作となる原稿を書きながら、本を読み、映画を観、ときどき酒を飲み、そして国道246号線沿いを歩きつつ思考した日々。疲れを癒すのは、「オハナシ」をせがむ幼い娘と過ごす夜のひととき。産みの苦しみと喜びを交互に味わいながら疾走した一九八六年を、丁寧に切り取った日記エッセイが待望の文庫化。

■感想
「深夜特急」の作者が、出版時にどのような状況にあったのか。また、並行してどのような作品を描いていたのか。日記風エッセイなので、作者の日常がよくわかる。いろいろな人に会い、話をし、飲みに行く。金にがめついという印象はなく、逆に講演会を実施する際には、貰いすぎとまで言ってしまう。

ある程度売れっ子作家になったとしても、つつましい生活を続け、子供との癒しのひと時を過ごす。他の売れっ子作家のように、ゴルフをして銀座で豪遊なんてこととは無縁の生活だ。この作者の無欲なところが魅力のひとつかもしれない。

作中で登場してくる作品の中で、読んでみたいと思ったのは間違いなくキャパの翻訳作品だ。それほど英語力が高いわけでもない作者が翻訳した作品。いったいどのようなものになっているのか、非常に興味がわいてくる。さらには、年代的なものかもしれないが、子供との関係がよく描かれている。

ひとりユーラシア大陸を横断するなんていう、むちゃくちゃなことをやる作者だが、子供に関してはマイホームパパ的な一面をのぞかせている。今までのエッセイなどを読むと、あまり家庭の色を出していなかったので、この部分は非常に驚いた。

30年前の作品なので、出てくる人物が懐かしいを通り越して、違和感を覚えてしまう。作中では若手的な扱いをされている人物でも、現実ではとんでもなく大物になっていたりもする。こうやって昔の作者の日記風エッセイを読むと、今現在の作者のエッセイではどのように変わっているのかを読んでみたくなる。

ノンフィクションライターとしても作家としても成功した作者だけに、どのような日常を過ごしていたのか。若いころのように精力的にあちこち動き回ることができないにしても、それに代わる何かはやっていることだろう。

30年も前のエッセイだが、古さを感じない。



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